実際の空間に掛けるという観点から見た場合,制作の際には色紙形の位置にも配慮、が払われていると考えたからである。分類結果を〔表1Jに示す。聖衆来迎寺本はしばしば『往生要集j(源信編著/寛和元年(985))の絵画化という観点から解釈される。本作制作にあたって『往生要集Jが強く意識されていることには,異論の余地がないものの,15幅のうちには『往生要集』を逸脱する要素もあり,『往生要集』だけで本作の制作意図を解釈することはできない。以下では,その点も念頭に置きながら〔表1Jの内容に関して説明を加える。まず,上から1段目には,15幅のうち唯一色紙形を左右に2枚配す「閤魔王庁図」を分類した。題辞は『地蔵十王経』に典拠し,描かれた内容も『往生要集』とかなり隔たりがある。色紙形が左右に2枚あること,閤魔王が正面向きで構図も左右対称性が強いことから,全体の中で中心とされる幅であるような印象を受ける。次に2段目には念仏の功徳を説く2幅を分類した。題辞と描かれた内容共に『往生要集』大文第七「念仏利益」所載の阿弥陀念仏の功徳を説いた説話を描く。念仏による堕地獄からの救済を主題とする点で,他の13幅とは異質で、ある。2幅のうち「警職経所説念仏功徳図」には,僧によるその母と,国王の救済の場面が描かれ,I優婆塞戒経所説念仏功徳図」には,妻による夫の引導の場面が描かれる。2幅共,女性が重要なモチーフとされており,発願者の問題を考える上で興味深い。残りの12幅は,いずれも六道の有様を描く。この12幅について,さらに,色紙形の位置に注目し,3段目には六道幅の内,色紙形を中央に配置するもの,4段目には色紙形を左右どちらかに寄せて配置するものを分類した。そもそも六道とは,因果応報により輪廻転生する,地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人-天の6つの世界を言うが,本作では,3段目に分類した6幅で,この六道が全て完備されていることが,(表1Jから理解される。すなわち,六道を描く12幅の内,色紙形が中央にあるものだけを取り出すと,それだけで六道を完備した六道絵が抽出される。では,六道の有様を描く12幅の内,残りの6幅には何が描かれているのか?4段目に目を転じると,右から等活地獄・黒縄地獄・阿鼻叫喚地獄という3つの地獄道と,人道不浄相・人道苦相(生老病死苦)・人道苦相(愛別離苦)という3つの人道が付加されている。これを『往生要集』との関係で見てみると,地獄が付加されている点については,『往生要集』においても,地獄道が他の五道と比べて多く記述されているので,それを233
元のページ ../index.html#242