覧J(表)を参照すると,第二期を境に増えているのが分かる。これは,第二期で使用-第三期紅と緑と藍(宝暦6年頃~)・第三期紅と藍と黄(宝暦10年頃~)の三期に発達の段階を分けて考える事が出来そうなのである。口色の重ね紅摺絵の最初が,紅と緑(草)色で始まったが,事保頃の詩集においても,その始めはやはり紅と緑の二色から始まる。この共通性はどこからくるものであろうか。そもそも赤と緑は,色相(注10)として,対極に位置する〔図5)。これは,即ち少ない色数で,最大限に鮮やかさを見せる事が出来る配色である事を示している。そして,赤,青,黄の三色は色相として最も安定した配色であるとされている。これを紅摺絵の発展の過程に照らして合わせてみると,と色数を増やす際に,より安定した色彩へと移行して行ったことが分かる。紅摺絵の第三期頃の作品から,三色以上の彩色摺の作品がある。しかし,これらの作品を仔細に見ると,紅の上に青の絵の具を摺り,紫色(赤味のある灰紫)を演出したものであることが分かる。実際,色を重ねて摺ることで混合色を作ることが出来るものかどうかは,皮肉なことに,色板がずれて摺られてしまった作品を見ることで確認が出来る。色の掛け合わせは,第二期以前にも多少の例はあげられるが,I紅摺絵使用色系統一され始めた藍の色彩の特色に依る所が多い。それまでの,紅と緑は色相として対極にあることは既に述べた。対極にある色を混合すると,酷く濁った色となる事が多く〔図6) ,視覚的に効果を上げた例は少ない。実際に重ねて摺られたものは,少し淡い色調の緑を使用したものに例を見出せる。その点,赤と青は色相的近く,この掛け合わせで作られる色彩は受け入れられたのであろう。また,薄い色彩を使用しているので,下に他の色を置くとそれを透かして重ね摺りの効果が容易に得られたとも推測出来る。この「重ね」の色が効果的に現われることも助けとなり,色の掛け合わせをして,画面上の使用色数を増やす例が増え,紅摺絵の彩色は複雑になってゆく。第三期で,黄色が加わる事によって,重ね摺りの際の下地となる色が紅と黄の二色になり,黄と青で緑色表現が可能となった為,緑系統の色彩を使用する例が減少した。第1期の紅と緑→ 第三期の紅と緑と青→ 第三期の紅と青と黄-252-
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