注景に,信者たちの「仲介者」としてベストの終駕の祈りを天に伝えた「聖グレゴリウス伝」の「聖母図」を称える「聖母被昇天jの祝日への,1348年のベストをきっかけとする関心の高まりを想定できるのではないかと筆者は考える。以上,オルカーニャ作タベルナーコロが独自に持ち,また強調していると考えられる図像大天使ミカエル及び〈聖母被昇天〉ーについて,1348年のベストとも深い関わりを持つ「聖グレゴリオ伝」を典拠とする可能性について論じた。これらの図像についてはこれまで踏み込んだ研究が為されてこなかったが,上の解釈に従うならば,これらが,ペスト時に信仰を集めた奇蹟の「聖母図Jを収納することを目的とするタベルナーコロの図像プログラムの一部として,極めて重要な意味を担っていたことが明らかとなろう。(1) 作品制作に関する諸記録については以下を参照。D.Zervas, Orsαnmichele : Docu-ments 1336-1452, Modena, 1996, pp.33-51.又,作品中にはオルカーニャによる以下の署名がある。ANDREACIONIS PICTOR FLORENTIN ORATORII ARCHI-MAGISTER EXTITIT HVI MCCCLIX.猶,収納されている「聖母の板絵Jはベルナルド・ダツデイ作のもので,1347年に為された支払い記録が残っている。op.cit., p.27. (2) タベルナーコロの建築構造については以下を参照。C.Pisetta-G. M. Vitali,“Nuove acquisizioni sul tabemacolo di Andrea Orcagna attraverso il rilievo interpretativo", in D. Zervas, Orsanmichele a Firenze I, Modena, 1996, pp. 365-399. (3) G. Villani, Cronaca VJ[, Cap. CLV, ed. F. G. Dragomanni, Firenze, 1844, p.479. 「オルサンミケーレの聖母信者会Jについては以下を参照。L.del Prete, Capitoli della Compagnia della Madonna d'Orsanmichele dei sec. xm e XIV, Lucca, 1859 ; S. La Sorsa, La Compagnia d'Or San Michele, Trani, 1902. (4) Dom巴nicoLenzi,‘Specchio Umano', Firenze, Biblioteca Laurenziana, Tempi 3, fol. 79r.この写本の制作年及び挿絵の作者(BiadaioloIlluminator)については以下を参照。ACritical and Historical Corpus of Florentine Painting, m, II, ed. M. Boskovits-M. Gregori, Firenze, 1987, pp.246-259. (5) 本作品に関する近年の主な研究を以下に挙げる。N.R. Fabbri-N. Rutenburg,“The -281-
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