鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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⑧ 高田敬輔研究研究者:学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程高田敬輔(1674-1755)は江州蒲生郡日野(現・滋賀県蒲生郡日野町)出身の絵師で,はじめ京狩野の狩野永敬に習い,後に画僧・古欄に師事して,雪舟の画法に学んだと伝承される(注1)。在世当時,画名の高かったことが窺われるが,敬輔自身の画業に関心を寄せた研究例はまだ少なく,その層はけっして厚いとはいえない(注2)。敬輔研究は,土唐次義氏が作品と伝記を紹介する一連の論文を発表され(注3),美術史上埋もれていたといっていい敬輔の画業解明に大きな進展を促した。その後は展覧会で敬輔作品が紹介され(注4),近年では岩田由美子氏による論考が発表されるなど(注5),敬輔への関心は徐々に高まりつつある状況にあるといえる。本稿ではそのような先学の成果に依りながら,作品調査を行った結果をリスト化し,それらの調査報告に基づき基準作例,基準的な表現についての検討をまず行いたい。つぎに伝記のなかで伝承されてきた事跡について若干の検討を加え,敬輔の伝記研究の充実に努めたいと思う。作品の調査報告および基準作例の検討敬輔作品はこれまで基準作例の検討は行われておらず,いわゆる「敬輔風」の作例が敬輔画として流布している例も散見される。敬輔の故郷・日野を中心に,多くの御所蔵者の厚意により,現段階で可能な限りの調査を実施し,基準作例と判断しえた作品をまとめたものが〔附表〕である。画題として仏画,道釈人物画,山水画,走獣画が主に挙げられ,手法としては墨画もしくは墨画淡彩が多く,若干の著色画もあるc手法別に敬輔画の基準となる表現について確認してゆきたい。まず墨画作例では,代表的なものに日野・信楽院蔵「竹林七賢図扉風J(リスト15,以下附表の作品番号に該当)が挙げられよう。今日の敬輔水墨画のイメージをこの作品が形成したといっても過言ではなく,敬輔画の特徴である「筆力が雄健で独特の作風jを示す例として(注6),また曽我粛白の描く衣文親への影響を示す例として(注7 )紹介されてきた。人物は擦れをともなう太く勢いのある線を中心に,鋭角的な角度をもって,一見粗放とも思えるような筆はこぴで捉えられる。なめらかな運筆を拒否するかのような,山本ゆかり299

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