9 J (リスト14)は敬輔の代表作として名高いが,本作をベースとした疑問作が流布すつぎに疑問作を目にすることの多い,龍を描いた作例について才食討を加えておく。日野・信楽院本堂天井面「雲龍・八大龍王・章駄天・飛天図」のうち「雲龍図J[図るのを目にすることがある。疑問作は大画面の「雲龍図Jのかたちだけ真似て軸装の画面に収めたもので,どこか行儀よく小さくまとまっている印象をぬぐえない。類作がいくつかあることから,信楽院天井画をイメージした敬輔摸倣作の作画パターンの存在が想定される。敬輔が描く龍の基準作としては,日野・正明寺に所蔵される「関羽龍虎図」三幅対のうちの右幅に描かれた「龍図J[図10J(リスト19)をあげたい。中幅の関羽図,左幅の虎図の作風的確実さからみて,最晩年の81歳のときに敬輔が描いた龍と判断し得る。信楽院天井画「雲龍図」から11年の歳月を経ているが,鼻や髭の描写に共通性があり,画面から抜け出そうな迫力も健在である。以上,墨画,また墨画を基本とした淡彩画も一部含め,敬輔の水墨画における基準作例,基準的な表現について見てきた。つぎに敬輔の彩色画の例を報告したいが,現段階の調査では,敬輔の彩色画は仏画作品に限られている。水墨表現とは異なる敬輔画の側面は,必然的に仏画作品のなかに表れるのである。個人蔵「阿弥陀如来立像図J[図11J(リスト21)は無款ながら,敬輔のj農彩による仏画制作を示す好例といえる。金泥を惜しみなく使用した非常に神々しい風格を持つ。墨線に金泥による細い練を添え,赤い顔料と金泥によって蓮をあしらう衣の文様がたいへん精織に表現されている。阿弥陀の足元には,敬輔の特徴をあらわす雲が描かれ,外隈に淡墨を入り組ませることで,入道雲のように輪郭のはっきりした存在感のある雲が描かれる。知来が乗る蓮華座の花びらの合聞からは,細かい金泥で描かれた花弁内部の様が丁寧に描かれている。敬輔が濃彩の手法に対しても,丁寧で確かな表現力と技術力をもっていたことが確認できる。これまで注目される機会が少なかった,敬輔画の一側面といえるだろう。また敬輔画のなかには,仏教経典をテキストとする領域がある。日野・信楽院蔵「天下和順図J[図12J(リスト1)は,無量寿経に説かれた一節を画題とする三幅対で,中幅に釈迦とその弟子・迦葉と阿難を,左右両幅に釈迦の遊行した村々がその教えを守ることによって実現する理想社会のありさまを描く。特に左右両幅は,曽我粛白の建仁寺久昌院「楼閣山水図J(双幅)へと継承されるような,I険しい山水画の構図を見302
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