鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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ただし,これらはいす、れの時期にかこの堂に移されたものであろう。この正の頂で,中心的な位置を占めてきたのは,3躯の菩薩立像であったと考えられる。この観音堂を紹介する地誌の言及も,これらの菩薩立像を中心としたものである(注4)。(2) 3躯の菩薩立像の概要千手観音立像〔図1~ 5 Jは堂内奥の中央に安置されている。像高234.2cmを測る大きな像で,台座光背を含めると3mを優に超える。頭上に十一面と化仏を頂き,胸前で合掌する真手と腹前の宝鉢手のほか,多くの脇手を広げて総数で42菅とし,蓮華座上に正面を向いて真っ直ぐに立っている。白童相はあらわさず,耳呆は環状として貫通し,筒状の首に浅く三道をあらわす。鼻孔をあらわす。耳後ろからは垂髪がたれて,肩に至り枝分かれして,波打ちながら広がる。胸のくくりは一条で,腹のくくりはあらわさない。着衣については,上半身には条吊を着け,また,背面を幅広く覆い,両肩から胸脇を通って真手の前牌に懸かったのち,体側に沿って垂下する,天衣をまとう。下半身には裳を着け,その上に重なって,前面背面ともに,天衣がめぐっている。裳の上端左右には,腰帯が表されているのが目につく。背面のそれは無文であるが,前面は,紐二条,連珠,紐二条からなる基本帯の下に,陰刻による鋸歯丈と組み合わされた列弁を配するという,凝った構成になるものである。このような構成は,上勝の管銀1[も同様である。つぎに構造について。頭体の根幹部は,広葉樹のー材より彫出する。内割は施さない。樟かとは思うがやや違和感があり,材の判定は難しいが,とにかく構造,大きさのためもあって,像は大変に重く,4, 5人かかってようやく動かすことができるものであった。垂髪,真手の手首近くに至るまで,両胸脇から前牌に垂れる天衣も,根幹材と共木である。また,現状蓮肉以下は別材であるが,蓮肉中央の,幅21.3cm,奥行20.6cmを測る四角形の部分は,深さは不詳ながら,本体と共木であろうと推察される。別材製の部分に移る。頭部の天冠台から上,頭上面,化仏,背面を覆う天衣。合掌手の手首から先,宝鉢手はじめ脇手,持物,足の先,そして真手の前牌から垂下する天衣の遊離部。これら別材製の部分は当初からそこが別材だったかどうかの判断は難しいが,現在の部材は,総じて後補のものと看取される。しかしその中で,頂上仏面については,本面に通じる異相にも鑑みて,当初のものに補修を加えて転用している可能性があると見る。この千手観音立像の左右に,あたかも脇侍のようにして,2躯の菩薩像は立っている。これらのうち,左手に立つ像〔図6・7]から見てみよう。こちらは十一面観音326

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