(3) 造像の時期について立像である。像高は176.3cmを測る。直立に近いがやや右足を遊ばせて,わずかに動きを感じさせながら蓮華座上に立っている。なお,紙幅の都合があるので,2像の像容については,今回のところは主として図版に委ねさせて頂こうと思う。以下は,そこからは窺い得ない構造の概要を中心に紹介しておく。構造は,頭体根幹部は足下の蓮肉までを含めて,樟と見られる広葉樹の一材から彫出している。内寺uはない。別材製の部分は,天冠台から上,頭上面,両肩先,両足先。基本的に別材製の部分には,後補のものが多いようであるが,手先を除く右腕,そして頂上仏面は耳の形態なども本面と相似していることから,当初のものを伝えている可能性がある。なお,前面の地髪部周辺は耳前の渦巻髪を含め,かなり木原による整形がなされている。渦巻髪の表現など興味深いが,当初の有り様を伝えるものと確言することはできない。ちなみにこの像も,千手観音立像同様腰帯を見せているのが,この期にあっては珍しく目を引くが,その構成は,紐二条,連珠,紐二条,列弁というもので,鋸歯丈は伴わず,また千手観音立像のそれに比べると,小振りで大人しげな感がある。さてもう一方,右手の像〔図8・9Jについて。この像は,像高151.5cmを測る。直立する六骨の菩薩像である。しかし脇手の取り付け部をみると,かつてはさらに下段に脇手が配されて八腎であった可能性もある。尊名については,確定するに足る標識が見受けられず,具体的に尊名を記した記録の存在を探索し切れていないことから,はっきりとは分からないが,八骨の不空霜索観音ではないかと考えている。本稿では,不空霜索観音として扱うこととする。構造は,頭体の根幹部は,真手の両肩先肘までを含み,樟かと見られる広葉樹の一材より彫出する。内引はない。この像は蓮肉以下は別材である。その他,真手の肘から先,合掌手,脇手,背面を覆う天衣,足先も別材で,これら別材製の部分は,全て後補と見られる。なお,地髪部から上は,木尿が全面を覆っている。耳前の渦巻髪や,鋸歯状の陰刻丈様を持つ天冠台なども,全て木尿にて整形されたもの。やはり当初からの形態に倣ったものと確言することはできない。そしてこの像も,腰帯を見せているのが特徴的であるが,千手観音立像や十一面観音立像のそれと比べて,また本像の,紐一条,連珠,紐一条,列弁で構成される真手の腎釧!と比較しでも,かなり崩れた不規則な印象を与えるものである。その構成はおおよそ,三段の升目からなる帯の下に,列弁を巡らせたようなかたちに見える。まずは千手観音立像から造像の時期を考えてみる。他の2躯はその後に,自ずから-327-
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