鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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⑮ 日蘭貿易における陶磁史料の研究一一肥前越器製医療製品を中心に一一研究者:武蔵野美術大学非常勤講師はじめに江戸時代,オランダや中国の商人らによる肥前磁器輸出の記録が知られるようになりすでに久しい。なかでもオランダ東インド会社を介した輸出は,I東インド会社文書」という組織性,網羅性の高い史料が調査され,貿易のあらましが知られるようになった。しかし,この文書は膨大な史料,しかも使用人口の少ないオランダ語による記録であるため,いまだなお埋蔵史料の宝庫ともいうべき状態にある。こうした陶磁史料のうち,今回は医療製品にテーマを絞り調査結果をまとめた。また,中でも主力製品であったと考えられる肥前磁器製品の薬壷の例をとりあげ,対照をこころみた。l章研究史肥前磁器貿易における史料オランダ東インド会社文書を論拠とする輸出肥前磁器の史料研究の概略をつぎに述べる。その先駆となったのは1954年に発表されたオランダ人の民俗学研究者フォルカー氏の研究である(注1)。以後同領域の唯一のまとまった史料研究として欧州、|のみならずわが国でも日蘭陶磁貿易の史実解明へ端緒を聞いた。その後1988年,近世貿易史研究者山脇氏の仕訳帳を軸にした研究により,1650年より1757年まで続いた肥前磁器の輸出数量がはじめて明確に示された(注2)。さらに1990年代以降は,オランダの漆芸貿易史料研究者フィアレ氏が日蘭陶磁貿易の推移を広く商業史的にとらえようとする史料研究をおこない,その一部が近年発表された(注3)0 2章医療製品における従来の史料研究の問題点山脇氏により原典である文書の解釈に問題点が指摘されて(山脇p.284,344)以来,フォルカー氏の研究は,日本では慎重な扱いをうけるに至っている。氏は原典注をつけておらず,内容の真偽について疑問視されるむきがあるものの,氏の研究は包括的で豊富な間磁貿易に関する情報集積であるため,今日もとくに海外では基本文献のひとつとして引用されている。しかしながら肥前磁器の医療製品に関していえば氏の佐賀県立九州陶磁文化館学芸員藤原友子棲庭美咲(棲庭・藤原)(棲庭)371

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