ば,1650年より79年までの医療製品の総輸出量は157,518個,すなわち総輸出数量の19%を占める。このデータから,アジア,中近東の会社の医療用実用品という市場ジャンルの成立を読みとることができょう。5章薬査の大規模な生産量2章において製品研究の領域より提起されたフォルカ一氏の研究における問題について,史料研究の側からはおおむねの回答をひき出すことができる。ガリポットという語を原文に遡ったところ〔表1J,軟膏用salfや保存用conserfなどの壷pottenに相当していることから,ガリポットという語は壷に由来しているものと思われた。しかしながら,このpottenに相当するとみられる製品の肥前磁器製薬査は(6章),英語ではむしろ通常albarello,drug potなどと称される薬査の一般的な器形であり,ガリポットなる特殊な訳語をあてはめる必要性を想定することは難しい。フォルカ一氏の研究を参照した場合,2章で問題提起されたように従来通り「ガリポットニ瓶」と解釈するならば,I瓶jの輸出量は不当に増大し,薬査は過小に評価されてしまう。ガリポットなる訳語は,医療製品の生産状況に対する正当な解釈を阻む可能性を内包しているのである。一方,山脇氏の研究では,医療製品の訳語は丁寧で矛盾がない。ただし,とりわけ輸出初期の医療製品の数量は総数として把握されたものの器種別の詳細は省かれた期間があった。また,フイアレ氏が発表した研究の主題は日蘭交易にあったので,アジア市場については言及されていない。そのような訳で,これまで前出三氏による丈書史料を用いて医療製品の生産量を器種別に把握することは不可能であったといえる。ここであらためて〔表2Jを器種別に辿ってゆくと,最も多い器種はさまざまな用途のしるされた薬用の査である。このように薬査と記された製品は84,188個,これ以外に壷か瓶かが不明な45,297個がある。仮にこの半数を加えれば106,836.5佃,すなわち医療製品の67.8%を薬査が占めることになる。医療製品のうち,もっとも生産量の多い主力の製品は,薬査であった可能性が考えられる。今回の調査で発見した史料にもとづき,文書tの「壷」を「瓶jとして解した旧来の史料研究における認識を修正することにより,これまで知られることのなかった肥前磁器製薬壷の大規模な生産量を把握することができたように思う。(3~ 5章棲庭)376
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