鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
398/670

3 :白薩摩茶碗伝世品と窯世出土陶片との比較検討3-1 :伝世品A:鹿児島県立美術館所蔵の白薩摩茶碗〔図1J 薩摩焼の初期研究者たちが,I朝鮮陶工が朝鮮渡来の陶土で白薩摩焼をやいたjとしたために,その後の概説書は,その内容をそのままヲ|き紙ぐ形となって現在に至っている。しかし佐藤雅彦氏は考古学の資料を検討し,また矢部良明氏はやきものの様式史から,17世紀後半に「白薩摩焼」が成立したとしている(注6)。このように,白薩摩茶碗の伝世品が17世紀前半の薩摩焼開窯時,朝鮮問工来鹿期に始まったという伝承に疑問が呈され始めたが,薩摩焼の歴史はいまだ伝承を繋ぎあわせて描かれた域を出ていない。白薩摩茶碗の伝世品のうち,代表的形姿をもっ6点を取り上げ,その特徴をみてゆきたい。高さ:1O.Ocm 口径:12.5cm 高台径:6.4cm 重量:403g 口径12.5センチの大ぶりの碗である。胴部は腰が丸く脹らみ,口縁にむかつてまっすぐに立ち上がる。口縁部に重みはない。嗣下に離轄目を荒く太く残し,高台は竹の節状に削られている。畳付き,高台内まで軸がかかり,高台内には渦巻き状の浅い彫りが見られる。見込みには渦巻きが薄く残り,目跡はない。白色陶土に透明粕が高台内までかかった総軸の茶碗である。紬は青白く,荒い貫入に覆われている。403グラムの重い茶碗で,胴部4分のlほどの補修がある。箱書,添状はない。東京都港区の島津藩上屋敷跡地(注7)の出土遺物に茶碗の高台部分を含む2/3個体がある〔図2J。口縁部は出土陶片の方が端反り気味だが,大きさ,腰部の削り,太い聴韓日の残し方,高台の作り,日跡が無い点など鹿児島市立美術館の白薩摩茶碗〔図1]に近い作行きである。高さ:8.3cm 口径:13.5cm 高台径:6.6cm 重量:405g 口径13.5センチの大ぶりの碗である。腰部に膨らみを持たせ,口縁下で絞り込み,B:個人所蔵の白薩摩茶碗〔図3J-389

元のページ  ../index.html#398

このブックを見る