し,国家や社会によってイデオロギーが自然化される過程において大衆文化が果たす重大な役割について様々な例をヲ|いて論じている(注3)。従って本稿ではコンパインにおける参照論理を解き明かしながら〈無題〉を中心にその大衆文化のイメージの機能と意義について考察したい。〈無題〉は平面から成る立方体状の作品であるが,正面の上部平面には様々な写真や新聞の切り抜きがコラージ、ユされ〔図2),下関口部には鳥の剥製,その左にはこの作品中で最も大きなイメージである白いスーツを着た男性の写真が貼り付けられている。男性の足元には彼の姿を映し出す鏡が,その横にはギリシャ神殿の円柱を模したような白い支柱が取り付けられ,観者にこのイメージをギリシャ神話のナルキッソスとして読むことを促している。白いスーツは作品内部に設置された白い靴とともにラウシェンパーグの出身地であるアメリカ南部では男性の正装とされ,男性美の一形態として認識できることからも,ナルキツソスの自己愛という要素を強く喚起する。そして自己愛というモチーフが平面下部の自慰に耽る男性のイメージと共鳴する一方で,鏡は美を反復する機能を果たしている。というのも,靴を載せた板の下面はコラージュされており,鏡を横側から覗き込むと,美人コンテストで優勝したラウシェンパーグの妹,ジャネットを紹介する新聞記事を映し出すからだ。美人コンテストはパリスの審判とその勝者であるアフロデイテを間違いなく想起させ,こうしたイメージの並置の連続によって〈無題〉におけるギリシャ神話への言及は疑いの余地のないものとなる。さらに,白いスーツ姿の男性と構図的バランスを取るかのように平面右上に配された兵士とパラシュートのイメージがイカロス神話を〈無題〉につけ加える。ラウシェンパーグが切り抜いた部分から実際に何が起きているか判断するのは困難だが,この『ライフJ記事は実はアメリカ空軍によるパラシュート降下の訓練中に起きた突風による事故で5名の犠牲者がでたことを伝えている〔図3)。写真中の兵士は,突風に引きずられて着地に失敗した仲間を救けようと駆け寄っているところなのだ〔図4)。飛行の試みとその挫折,という主題は白いスーツ姿の男性の横に置かれた雄鳥(=飛べない鳥)の剥製とも呼応しているが,興味深いのは平面左の半ばに配された,自らの姿を水面に映している雄鳥の写真である。飛べない鳥が自らの姿に見入っているこの話語的なイメージは,ナルキッソスの姿のみならず,挫折した飛行というイカロスの神31
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