る。たてがみは直線的で、,短く切りそろえられているように見える。細部もきちんと描かれていて,耳の産毛や口の周りの表現は繊細で,胴掛けは胸で結ばれ,轡の紐にはたっぷりとした房がつけられ,尾は雷のように一旦まとめであるらしい。しかし,この馬の造形や模様の由来はどこにあるのだろうか。馬の身体に緑色と黒色の柚薬でつけられた雲形のような斑文様は,他にはイギリスのパーリーハウス・コレクション蔵の有田焼の犬(注13)に近いように思われる。しかし,二色を重ねて絵付けしておらず,緑・赤・黒を別々に重ねずに使用している。この不思議な模様は,17世紀後半のイギリスでは「大理石模様J(注14)と表現されていたようである。また,デルフト陶器を手本にしたという有田焼の赤絵染付の馬(注15)にも赤・黒をそれぞれ単色で使用した斑模様が上絵付されているが,フォルムの点では共通性はほとんど認められない。さらに,有田焼の犬(注16)はフォルムは西洋の犬彫像がモデルのようだが,斑模様があり,毛並みを表現した点や色を重ねていない点は馬とは異なるものの,斑模様の形と全体に対する比率は最も馬に近い。中国・景徳鎮窯,福建窯など彫像の作例は多いが,関連性のありそうな馬の造形はいまだ管見していない。時代をさかのぼれば漢代や唐代の明器としての彫像はリアリスティックに制作されている。しかし,この時代,景徳鎮や有田は,ヨーロッパ市場の需要に応えるために,制作者側の感性だけでなく,注文者側の要求に合わせた制作を行った。彫像でも,東洋の造形によるものもあれば,ヨーロッパ製の実物がモデルとして提供されたことを想起させるような作例も見られる。人物であれば,観音,羅漢,唐子,力士,婦人,動物では,鵜鵡,鳥,象,虎,鶏,鷹,犬,馬,鯉などがある。次に,江戸時代における陶磁器以外の素材での馬の表現を見てみると,馬は根付,印龍,絵馬,漆工品,染織品,陶磁器の加飾などに現れるが,問題の色絵馬の源を思わせるものは見あたらない。ただ,I瓢箪駒牙彫根付J(19世紀大英博物館蔵)の,目を見聞いて歯を食いしばったコケティッシュな馬の表情は色絵馬と共通するものがあると思う。現在5体が確認されている色絵馬は,明らかに輸出のために制作されたもので,馬の造形と馬具類は日本的感覚に基づいたものだが,斑についてはモデルとしてもたらされたヨーロッパ製彫像の斑模様から来ているのではないだろうか。おわりに17. 18世紀の輸出磁器において,柿右衛門様式が技術的・様式的頂点に達し,かつ434
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