鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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7王制作されたのはほんの30年間ほどと短かい期間ではあったが,巨大なライバルの中国・景徳鎮窯へ及ぼした影響は多大であった。また,ヨーロッパでの磁器製造への影響もまた大きく,tお手本Jとしての役割も卜分に果たしたことがわかる。17世紀の最後の30年間に花聞いた柿右衛門様式は,一旦は途絶えたが,12代と13代酒井田柿右衛門両氏の熱意と尽力によって再興され,現在は14代酒井田柿右衛門氏が柿右衛門窯を率いている。磁器制作の様々な工程を分業するメンバーで、構成されている柿右衛門製陶技術保存会は1971年(昭和46)に重要無形文化財保持団体く柿右衛門(濁手)>の総合指定を受け,14代酒井田柿右衛門氏も2001年(平成13)に重要無形文化財の個人指定を受けられた。17世紀の伝統に21世紀の風を吹き込んで,新しい柿右衛門様式へと発展することに期待したい。最後になるが,本研究を行うにあたっては,神戸市立博物館主査・学芸員岡康正先生,佐賀県立九州陶磁文化館学芸課の皆様,長崎市教育委員会扇浦正義様・古賀朋緒様・高田美由紀様,14代酒井田柿右衛門様,広島県立美術館事務局次長(兼)学芸課長村上勇様,他多くの方々に御指導と御協力をいただいた。ここに記して御礼申しあげます。(1) ただし,制作時期については,近年の発掘調査によって細かな年代特定が可能となっている。(2) 前田正明「近代日本陶芸の曙J,r淡交増刊号.1546号,1991年(平成3)。また,波山のエピソードについては,荒川正明「板谷波山伝説の背景Jr出光美術館研究紀要J第6号,2000年(平成12)に詳しい。柿右衛門伝説の流布は戦前までと記述されていることもあるが,筆者も教科書ではない読み物で読んだ記憶があり,こども向けのお話としては生きつづけている。(3) 1999年(平成11)の佐賀県立九州陶磁文化館による「柿右衛門その様式の全容J展は,多方面の調査の成果をまとめる意味で開催された。佐賀県立九州陶磁文化館編『柿右衛門その様式の全容』展カタログ,財団法人佐賀県芸術文化育成基金,1999年(4) 1992年(平成4)6月22日重要文化財(工芸品)指定(工第2542号)。柿右衛門様式作品の重要文化財は4点あり,勤務館所蔵品の他には「色絵花鳥文壷j個人蔵,435

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