鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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(6) 秋山氏は,物語絵の発生段階において叙情性を特徴とする歌絵がその基盤となっ(7) 高橋亨『物語と絵画の遠近法』ぺりかん杜,1991年,第l章(8)秋草は「飽き」と音通することから和歌の世界では冷めてしまった恋愛を象徴(9)佐野みどり氏は「柏木第一段」について「形の三角形の反復・転移は意味の三角たと指摘する。(注5)秋山前掲論文165~166頁するモチーフであるが,この場合の前栽は恋愛感情の移ろいのみならず,迫りくる紫の上の死期など,より複雑で重層的な意味を仮託されていると思われる。形へと変移するjと指摘し,画面を鑑賞者の視線に支えられた空間として捉えた上で,物語絵画における群像表現の機能について述べている。佐野みどり「物語絵画における群像表現Jr東アジア美術におけるく人のかたち>Jl東京国立文化財研究所,1994年同「源氏物語絵巻jの「竹河第三段Jや「宿木第三段Jにおいては吹抜屋台の構図や樹木や人物の形態に図形的な面白さを追求する志向が認められ,空間の意匠化への萌芽が存在している。川稲本万里子氏は「葉月物語絵巻JについてI(画家の興味が)意匠化された画面構成の面白さへと向かい,それと同時に装束や調度を文様でうめつくす等,画面の細部へと向かっていくjと指摘する。稲本万里子Ir葉月物語絵巻Jについて(下)J 『国華Jl1113号,1988年,20頁(12) 筆者は引目鈎鼻表現の祖型として「鳥毛立女図扉風J(正倉院蔵)のような唐風美人画を想定し,それが類型化を辿って,ヲ旧鈎鼻表現に至ったと推測する。同岡本順子氏は従来誤りとされてきた「紫式部日記絵巻jにおける有職故実上の問題を意図的な誤りとし,背景に王朝文化憧憶ではなく当時の公家社会を肯定する意識を指摘する。園本順子Ir紫式部日記絵巻Jの制作背景に関する一考察Jr美術史Jl147号,1999年,152頁同拙稿Ir隆房卿艶詞絵巻Jにおける物語の絵画化および作品の特質Jr美術史J1143号,1997年446

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