⑨ コラージュの空間一一不連続なもののなかに見出される統一性の問題一一研究者:東京大学大学院人文社会系研究科基礎丈化研究専攻はじめに二十世紀のコラージュの歴史において,ハンス(ジャン)・アルプ(1886-1966)とエルズワース・ケリ一(1923-)の「偶然の法則による」コラージ、ユは,特異な位置を占めている。アルプがこのタイプのコラージュを最初に制作したのは,チューリツヒ・ダダ時代(1916-1919)であった。アルプは,1930年代に再び,Iデッサン・デシレ(dessindechire) J (1ヲlき裂かれた素描」の意)と呼ばれるコラージュをもって,I偶然の法則」に立ち返る。アルプは,自分の気に入らなくなった素描を引き裂き,そうして得られた断片を地のkに撒き散らした。他方ケリーも,フランス滞在時代(1948し,次いで「偶然の法則によって」配置したコラージ、ユを制作したのである。また,今まであまり知られていないことであるが,パウル・クレーも,一旦完成した作品を切り取って分割し,そうして得られた部分を再構成することによって,コラージュを制作した一人である(注2)。意識的に再構成を行うクレーと,I偶然Jに依拠するアルプとケリーの違いはあるにせよ,I偶然の法則による」コラージュも,クレーのコラージ、ユと同様,I破壊的創造的」方法に基づいているといえる。従って,本論文では,この制作方法によるコラージ、ユを,I分析的コラージュ(col-lage analytiqu巴)Jという新たな用語のもとに分類することにする。この「分析的コラージュ」というカテゴリーは,一方で、は,異質な素材により構成される「綜合的コラージュ(collagesynthetique) J (キュピスム,未来派,ロシア構成主義,クルト・シユヴイツタース等のコラージュ)と区別され,他方では,シュルレアリスムのコラージ、ユ(と1954)にアルプに触発され,白分の素描やコラージ、ユを切り取ったり,引き裂いたり美術史学専門分野日本学術振興会特別研究員河本真理「そして,断片であり,謎であり,残酷な偶然であるところのものを,f一つのもの』に凝集し,綜合すること,これがわたしの努力と創作の一切なのだ。人間は詩人でもあり,謎の解明者でもあり,偶然の救済者でもある。もしそうでなければ,どうしてわたしは人間であることに堪えられよう。Jフリードリアヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラj(注1) -462-
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