鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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⑧ 唐代壁画墓における仕女図の様式的研究ー一右榔線画・石窟壁画・陶備も含めて一一研究者:京都大学大学院文学研究科研修員はじめに唐代が人物画の黄金時代であることは周知の通りである。そのうち特に仕女図の素晴らしさは,文献史料と伝世絵画によって従来からよく知られ,人々の注目を集めてきた。しかし,今日唐人の作品と関連づけられる伝世絵画作品は殆ど後代の模写であり,信憲性が乏しいため,仕女図の研究はかなり難しいと言わざるをえない。従って,近年唐代の壁画墓に発見された数多くの仕女図は,当時の仕女人物画の実態を知る上で最も信頼できる有力な手がかりとなっている。加えて,高松塚古墳壁画・正倉院の鳥毛立女扉風など日本美術における女性像を検討するため,数多くの研究者たちが唐代の女性像との比較研究を行った。よって,唐代美術における女性像の様式を一層明らかにすれば,日本美術における女性像の研究にも寄与するところは少なくないと考える。しかし,今日までの研究を振り返って見ると,唐代の壁画墓の発掘簡報並びに研究成果が多く発表され,且つ,仕女図に触れるものも多いにもかかわらず,これらの研究は考古学・風俗史の解明にのみ偏して,美術史的観点に立って唐全期に亘って女性像を整理・論述するものは管見の限りまだ見られない。この状態は,従来の発掘状況に基因したものと私は考える。つまり,90年代以前には唐代壁画墓の発見はまだそれほど多くはなく,しかも発掘された墓の年代は8世紀前期に集中していたため,7世紀と9世紀以降の資料が殆どなく,唐全期にわたる様式的な考察は条件的に不可能であった。ただし,近年の発掘によるめざましい発見の数々は,研究に資し得る唐全体の壁画墓の総数を増した上,特に7世紀の例も発見されており,様式的な考察をますます可能ならしめるに至った。したがって,本論では唐代壁画墓に描かれた仕女像を中心とし,同時に石榔線画・陶偏・石窟壁画などに現れる女性像、をも参考にし,唐代各時期の女性像がいかに表現されたかということを主眼として取り上げる。言い換えれば,年代が明確な女性像を取り上げ,女性像の造形特徴としての諸要素,つまりプロポーション,相貌や髪型や服飾や姿勢の表現などによる様式的系譜を作った上,この絶えず変化していった女性惇江-481-

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