鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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倒的に多い。田中一松氏が指摘したように,現存するものの中に独立した絵画作品として取り扱えるものは,墨絵菩薩像,彩絵仏像幡,鳥毛立女扉風,麻布山水図,十二支彩絵布幕ほど数点のみに過ぎない(注4)。にもかかわらず,調度品・工芸品の中,例えば,琵琶・既成類の弦楽器に配される拝接画や彩絵の箱の装飾文様などにも貴重な絵画資料が見受けられる。ともに,r東大寺献物帳』に記される宝物の中,現存はしないがとくに注意すべきなのは百畳に及ぶ扉風絵であろう。献物帳の記載によれば,当時,献上された扉風絵の中,I画扉風j二十一畳,I鳥毛扉風J三畳,I鳥書(董)扉風」ー畳のほか,染織模様のものの「爽瀬扉風J,I臆瀬扉風」がそれぞれと六十五畳,十畳あることが分かる。また画題から見れば,百畳の扉風中に絵画関係として「扉風画」二十一畳及び「鳥書(董)扉風J(1鳥毛立女扉風」に当たる)一畳あったことが確認される。なお,I画扉風Jは平安時代,光仁五年(814)九月十七日にすべて出蔵されてしまい,そのまま返納されなかったという。ところが『東大寺献物帳jI御扉風萱イ百畳」の記載により,扉風絵の内容は「山水J. I人物J. I宮殿建築J. Iその他」という四種類に分けることができる。山水画関係の作品の中,I画扉風類jとして「山水画扉風一具両畳十二扇J,I古様山水画扉風六扇J,I山水画扉風六扇jが記されるほか,1爽瀬扉風類Jには「山水爽瀬扉風十二畳各六扇jが記録される(注5)。扉風類以外に現存品のなかで目をヲ|くのは,上述の楽器類の拝援画である。例えば,いずれも八世紀の制作となされる紫檀木画槽琵琶拝援画『狩猟宴楽図』(南倉),楓蘇芳染螺鋼琵琶拝援画『騎象奏楽園j(南倉),紫檀琵琶拝擢画『鷲鳥水禽図j(南倉)や紫檀木画槽琵琶拝接画『山水人物図j(南倉)などが名品として挙げられる。さらに北倉の絵画関係の扉風と,南・北両倉の弦楽器の拝援画以外,絵箱,密陀絵盆,銅鏡ないし仏具類などにも山水文様,若しくは本格的な山水画というべき表現を有する作例がある程度伝わっており,八世紀の山水画を理解するには欠かせない存在であると考えられる。二唐代における敦埋・長安壁画中の風景描写北魂以降,敦埋石窟においては仏伝図・本生図の制作が極めて流行し,それらの壁画に配される山岳表現は,説話の各場面を区画するのみならず,各場面ないし壁画画面全体の空間構成を統一するという機能を有しているのである。だが,晴・初唐になると,敦煙壁画の山岳表現において山岳情景としての機能が高まっており,もともと一一513-

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