〔図3J。挿画としての品格技術ともに，響泉堂がはるかに春水堂を上回っている。で1， 2 J，春水堂および門人の作はいささか撤密さや変化に乏しく，単調さを否めないは，このような技を琴石はどこで手に入れたのか。そこで思い到るのは，高橋由ーの門を敵いたとされる明治6年の東遊である。琴石の各伝は，その後絵筆を載せて諸国を歴遊したとだけ述べるが，東京での滞在期間と諸国歴遊の実態を伝える資料は今日全く失われている。推測でしかないが，東京に一年か一年半くらい滞在し，その後足を伸ばして諸国を歴遊したとの想像は，それほど的を外していないであろう。琴石は遅くとも明治8年の後半には大阪に戻って，I響泉堂銅刻」の仕事を開始しているからである。翻ってこの頃の高橋由ーの動静を見ると，明治6年(1873)は浜町に画学場天絵楼を新築した，まさに記念すべき年であった。「天給塾門人牒jに記載する門人もこの年から格段に増加する。しかし，先にも述べたように同年由ーに指導を受けたはずの琴石の名は見られないのである。同じ頃の玄々堂についての平木政次の追想談は注目される。「明治五六年頃のことでもありませうか，高橋由一，石井鼎湖の両君が居られて卒(ママ)先して，石版董を研究された。山本芳翠君も同時から寄宿して，居られたと思う。最初洋董を志した人は，何れも此の玄々堂に集った様に察せらるるJ(注12)というもので，多少の記憶違いによる前後はあろうが，明治10年(1877)頃にかけて玄々堂に集まった高橋由ーや石井重賢(鼎湖)らは，3年に緑山がイギリスから輸入した銅版・石版印刷機の周りに集って石版画の試作を繰り返した。もとより銅版を試みた者もあったわけで，明治8年(1885)に刊行された『輿地誌略J三編や二年後の同四篇に，1於玄々堂」などと附して刻銘した中丸金峯(精十郎)や亀井至ーらの仕事に結実している。こうした輪の中に大阪から来た森琴石が加わっており，由ーにも指導を受ける場面があったとすれば，琴石略伝の記述と銅版術修得の事実をうまく連環させられるが，証拠はなく飽くまで一片の推測でしかない。玄々堂より早く『輿地誌略』に関係したのは，慶岸堂梅村翠山(1839-1906)とその門人たち，中川耕山，打田霞山，大村鶴峯らであった。『輿地誌略』初編と二編は川上寛(冬崖)の原画になる木版挿画を掲載するものがオリジナルらしいが，二篇には翠山とその一門の極めて精微な銅版挿画を交えた異版も存する。扉や奥付も変わりがなく，果たしてこれが重版なのか同時刊行の異版なのか不明であるが，仮に重版としても二篇(4~ 6巻，明治4)と同追加(7巻，明治6)の刊行時期から，さほど遅い45
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