⑩ 19世紀後半のフランス絵画におけるキア口スク一口に関する研究一一一モネとジェロームの作品を中心に一一一研究者:新潟県立近代美術館学芸員平石昌子l モネの初期作品のサロン落選という憂き目に遭っている。Iかささぎj[図1]という作品は,縦割センチ×横139センチの,比較的中規模の大きさのカンヴァスに描かれており,現在はオルセ一美術館に常設展示され,モネの初期の代表的風景作品と見なされているものである。描かれた場所はおそらくモネが1868年から69年にかけて滞在していたエトルタ周辺であろうとされている。新しく降り積もった真っ白な雪の庭に,穏やかな陽射しがあたり,雪に乱反射した光の粒子が空中にも浮遊し,地面に青い影をつくっている垣根や,木戸にとまっているー羽のかささぎとその影などが見事に表されている。静寂な光に満ちた雪後の雰囲気をこれほど繊細にとらえ得た油彩作品は他には見あたらないだろう。マイヤー・シャピロは,この作品に用いられた青い影の階調や暖色と寒色の淡い補色効果を賞賛し,そのシンフォニックな特徴を「色彩の新しい音楽,視覚的音楽」と呼んだ(注1)。モネは非常な情熱を注いでこの作品を描き上げ,サロンに応募した。その傍証は,る歓喜や自らの仕事に対する意気込みについて語っている。また,1869年1月11日付けの手紙においてはシルバー・ホワイトを中心に大量の絵の具を大至急送ってくれるようパジ、ルに依頼している。前年に雪景色をサンニシメオン農場付近で多数描いた経験があるが,それらは常に曇り空で,このように雪に自然光が降り注いで、いる景色はl点も描いていない。こうした光景を実際に目にすること自体が天慮に近いことであり,モネは晴れた日の雪景色の美しさを見逃さなかった。しかし,その結果はサロンに落選するというものだった。1869年のサロンではモネの仲間たちはあまり振るわず,組織的に落選させられている。たとえば1点入選,1点落選だったパジルは,父親に宛てた手紙の中で,落選の理由について次のように皮肉を込めた調子で書いている。「嬉しいことに,僕たちに対する真の憎しみが存在しています。すべての妨害はジェローム氏の仕業です。氏は僕たちを狂人の集団だと見なしていて,僕たちの絵が出品され1869年,モネはサロンに『かささぎ』と海景画l点を応募して2点とも落選する1868年12月のパジ、ル宛の手紙の中に見出される(注2)。モネは冬の自然が与えてくれ535
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