3. Iサムエルの奉献J:図像サイクルの起源えられており,WBの画家がSBを直接の手本とした可能性は低い。したがって,この場面におけるSBとWBの類似は,おそらく両者に共通する手本に起因すると考えられるだろう。SBでは,サムエルの誕生にまつわるエピソードとして,I嘆くハンナをエルカナが慰める場面J(1王:1, 8), I祭司エリとハンナJ(1王:1, 14-17), Iハンナによるサムエルの奉献J(1王:1, 24-28)があらわされている。333と特に相違が認められるのは,Iサムエルの奉献JC図7]である。SBでは,画面右に,神殿風の建物の前面についた階段の上に白髪白髭の老人姿のエリが座っている。エリの前には,幼いサムエルを連れたエルカナとハンナの姿が見られ,その後ろには,捧げ物を持った2人の男が立っている。一方,333の同主題場面〔図8Jでは,階段の上に座るエリの前にハンナとサムエルのみが立ち,画面右にエルカナが生け賛を屠る様子があらわされている。SBと類似する「サムエルの奉献jは,再び西方ロマネスク写本に見られるoWB では,サムエルの誕生にまつわるエピソードは,3場面で描かれている。「サムエルの奉献JC図9Jでは,祭壇の前に立つエリに画面左からハンナが幼いサムエルを手渡している。ハンナの後ろには,捧げ物を持つ男たちの姿が見られるが,ここでは夫エルカナは特に描き分けられてはいない。また,11世紀末の〈スタヴ、エロの聖書〉の「王の書J第一書の挿絵(ロンドン,大英図書館所蔵Add.28106,fo1. 97r) C図10Jには,「二人の妻とともに棒げ物をするエルカナJ,I食事をするハンナ,ペニナ,エルカナJ,「ノ、ンナとエリJ,Iサムエルの奉献」が画面下から上に向かつて描かれている。「ハンナとエリ」の場面は,エリがパシリカ風の建物の前面にいる点でSBと共通する。「サムエルの奉献」では,サムエルと両親がエリと向かい合い,幼いサムエルは,WBのように赤ん坊ではなく,SBのように子供として描かれている。画面右では2人の男が捧げ物を運んでいる。食事の場面では,悲しむハンナを慰めるエルカナの様子が描かれており,この表現は,WBの『王の書』第一香の物語付きイニシアル(ウインチェスター大聖堂図書館所蔵fo1.88r)の3人の食事場面と一致する。このように,WBと〈スタヴエロの聖書〉にはサムエル誕生にまつわる詳細なサイクルが伝えられている。さらに,SB, WB, {スタヴエロの聖書〉の「サムエルの奉献」場面には,興味深い559
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