2. 2000年度助成① 旧石器時代マドレーヌ文化の洞窟壁画における動物像と〈記号〉の関係一一アルトウチュリ洞窟(スペイン唱バスク地方)における動物像と記号の壁画配置と時間的分析を例に一一研究者:フランス国立パリ自然史博物館旧石器時代洞窟壁画研究旧石器時代の洞窟美術を研究するにあたって,その時代に関する先史学の知識は欠かせない。特にその時代の研究では,文献,伝承などの重宝な資料が欠けている。ただ,考古学的発掘によって出土された様々な遺物から,物質文化のみならず,さらに精神丈化に関する理解も可能になる。美術作品は物質文化でありながら精神文化理解の橋渡しをする。時空間,環境,社会,文化に関する理解を深めれば,美術という現象にどのような意味があるのかが見えてくる。旧石器時代を理解する時に,はじめに突き当たる困難といえば,時空間の問題である。一口に何万年と言われでも,お金とは違って量的に表すことはできない。人が具体的に認識できる時間の範囲は,その人の経験した年数でしかない。その年数に2倍3倍10倍もしくはそれ以上も想像できる。また,有史の歴史を学ぶことによって,想像を遥かに超える何千年前までを理解することができる。それは主に神話や歴史的文献資料によって,各時代を連続的に捉えることができる。しかし,旧石器時代ともなると想像をはるかに超えてしまう。あたって,地層という視覚的に認識可能な証拠がなければ,その時代は過去の暗闇に葬られたままだ、ったであろう。砂時計の砂が落ちるよっに時間が視覚的に認識可能になってはじめて旧石器時代のみならず,ヒト科登場以前の時代,さらに地球の歴史までも知るに至った。さて,考古学的地層は具体的に古い時代の堆積物は下に,新しい時代の堆積物は上方にある。積み重なって歴史が残る。基本的に同じ時代の遺物は同じ堆積層にあり,主に自然環境の変化や人の使用(炉跡,仕事場,ゴミ捨て場,建築物など)によって堆積層の土の種類や色が異なる。時には人が住めなくなるような状態,つまり川の氾濫や氷河期のピークに達したときなど一部の地域では生存不可能になる。その場合も,19世紀半ばまでその時代の存在は公に拒否されてきた。その大昔の時代を理解するに五十嵐ジャンヌ631
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