るのは,典型的なテーマ構成である。この洞窟では理化学的方法による直接年代測定法は適用されていない。壁画面の前の地面から考古学的遺物として尖頭器が一点と石器が一つしか発見されたが,残念ながら少なすぎて時代を特定できない。またそれらと壁画との関係も言えない。幾何学的な記号としてジグザグあるいはヘピ形が3つ,扇形1つ,枝分かれ形が1つ,円形が2つ,V字形が2つ,逆V字形が1つ交叉形がlつ挙げられる。線状記号は斜めの直線が6つ,線列が14,親影状平行線が36,曲線が6つ挙げられる。黒い斑点がlつ,点状記号が1つ,そして無秩序な線の集まりが9つO計84の記号がある。中でも,線影状平行線や垂直線列が多く,動物像と頻繁に重ね描きしている。特にピゾン像との重ね描きが多く見られる(21回)。線影状平行線(hachures)を記号としてみなす前に,念頭に置いておかなければならないことがある。線影状平行線はピゾン像の毛並みの表現として利用される場合がある。垂直のピゾン(No.42)では,輪郭線と線影状平行線が全く同じ技法,つまり刻線で引かれており,さらに線影状平行線は輪郭線をはみだしていない〔図2J。要するに,線影状平行線が動物表現の一部の場合がある。一方,線影状平行線は動物の輪郭線と全く異なる技法で刻まれいる場合がある。壁面を線影状平行線が覆い,その上に動物像が重ね描きされた。これは,線影状平行線が動物の毛並みの表現に利用されたとも言える場合もある。例えば,フランスのドルドーニュ県のレ・コンバレルI洞窟のウマや,ルフィニャック洞窟のマンモス,エロー県のアルデーヌ洞窟の洞穴のライオンの例では,クマが引っ掻いた痕跡,岩の表面に自然のしわが数多く残され,それらが利用されている。アルトゥチュリ洞窟では,ピゾン(No.27やNo.44),野生ヤギ(No.34)が縞状の壁面に描かれた〔図3,4, 5 J。特に垂直のピゾン(No.44)では,動物像に対して縦縞になるように,動物像は故意に垂直に配置された。さて,ピゾンが線影状平行線と顔繁に重ね描きされているのは,通廊状の空間の左右の壁面である。アルトゥテュリ洞窟において,動物像と特に線影状平行線や垂直線列の時間的な前後関係について見てみよう。まず,左の壁の延長にある狭い小部屋のグループ1AとBでは,刻画のサイガ(No.23)やピゾン(No.17,No.22, No.23, No.31)が椋影状平行線で覆われている〔図6J。635
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