鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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(No. 4),シャモア(No.5),ヒ、ソ、、ン(No.6, 7, 8)と,動物像の黒い輪郭線がこ同じ左壁の延長にあるグループ2には,黒いピゾン2頭が刻画の垂直線列で遮られている。グループ1,2の向いにある右壁のグループ3では,ピゾン(No.1 )の黒い輪郭線が刻画の垂直線列を二度覆い隠している〔図7)。再び左壁のグループ4では,黒いピゾン(No.7 , No. 10)が刻画の垂直線列に遮られている(図8J。さらに奥に進み右壁にあたるグループ5では,野生ヤギ(No.3),オーロックとごとく刻画の線影状平行線を覆い尽くしている〔図9Jo 5本の垂直線列の刻画は一見同じく刻画のウマ(No.9)の頚部を横断して遮っているように見えるが,実はその逆である〔図lOJ。動物像と記号の時間的前後関係を地勢と照らし合わせて分析すると,左壁に属するグループ1,2, 4では,線影状平行線は動物像よりも先に描かれている。逆に右壁に属するグループ3,5では,線影状平行線は動物像よりも後に描かれている。このように,グループlから5という壁面におけるピゾンと線影状平行椋というテーマ関係は一定しているが,壁面の左と右によって,動物と記号の時間的な関係は異なる。画像配置と時間的分析ルロワ=グーランがテーマと地勢の関係を一般化したのに対し,ヴイアルーは各洞窟の個別的特徴を強調しながら,各洞窟の画像配置,テーマ関係を研究した。また,画像に用いられた技法や地勢上の特徴を描写した。これらの総合的分析で得られた結果は各洞窟の象徴構造を明らかにする試みであった。本論で試みたのは,画像配置という空間的なパラメーターに,時間的なパラメーターを加えて,その洞窟の象徴構造を明らかにしようとした。この類いの分析は,ごく限られた洞窟にしか適用できない。洞窟によって様式や画像配置,重ね描きなど様々な様相をもっ。その中で,いくつかのパラメーターを統合して,その洞窟の特徴を明らかにした。同じバスク地方にあるとはいえ,エカイン洞窟などとは異なるテーマが支配し,技法も異なる。時間的分析は明らかに重ね描きしていることが前提にあり,観察可能な範囲で壁画の保存状態がよいものでなければならない。エカイン洞窟には多彩画のウマが多く,重ねがきがほとんど見られない。そういう意味でも,アルトゥチ-636-

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