鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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K.K.)を発表した。すなわち,密閉空間に酸化プロピレンをアルゴンで希釈導入し,2. ICBCP 5の概要と所感ICBCP 5は13カ固から約100名の参加者を迎え,基調講演4編,一般講演25編,ポスター2編の報告があった。そのなかから,文化財の保存に密接に関連している事項について,筆者の所感を述べる。害虫対策は,一般講演25編中13編を占め,報告が最も多い分野であった。その防除対策は多岐にわたり,太陽熱の利用,凍結法,酸素吸収剤,ガスの害虫への効力因子,IPM,害虫対策の現状報告,フェロモンの利用,トラップ法,薬剤の担体剤について報告された。微生物対策は,壁画面内外の生物劣化に関与するカピ相,微生物細胞の生死の迅速判別法,フレスコがの退色要因と対策,空気滅菌装置,砂岩造建造物の劣化,試料採集方法および培養法の検討など25編中6編が主たる報告であった。これは文化財の保存と修復に微生物の専門家の関与が世界的に少ないことを示しているのかもしれなし、。慎蒸法は3編の報告があった。世界で長年利用している酸化エチレンに発ガン性のあることが1990年に指摘され,作業環境の許容濃度が50ppmから1ppmに改正された。さらに,オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書第4回締約国会議(1992年11月)で臭化メチルがオゾン層を破壊する物質と認定された。その製造・使用は2005年から全廃されることが決定している。我が固で1979年以来文化財の燥蒸剤として広く利用してきた酸化エチレンと臭化メチルの混合剤が使用できなくなるのでこれに代わる文化財の加害生物を殺滅する燥蒸法の開発が緊急課題となっていた。筆者らは1990年から酸化エチレンより低毒性の酸化プロピレンを主剤とする燥蒸法の実用化を検討し,2000年10月に酸化エチレン・臭化メチルに代わる低毒性で環境を汚染せずに殺菌・殺虫効力のある標蒸法としてアルプ慎蒸システム(エア・ウォータ−ガス濃度を2.0%に保ち,8〜30℃,48時間処理で100%の殺菌・殺虫効果が得られることを報告した。シンガポールからは不燃焼慎蒸剤として酸化エチレンをフロンHFC134aで希釈した慎蒸剤が報告された。本剤は密関空間に殺菌の場合350g/m九殺虫の場合200g/m3を投薬して20℃,24時間処理で殺減効果が得られる。しかし,本剤は発ガン性の酸化エチレンを主剤とし,地球温暖化係数が二酸化炭素の3300倍と報告されているフロン649

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