鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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HFC134aを希釈剤としている。人類にとって掛替えのない地球環境に悪影響を及ぼすことが判明している物質は使用すべきでないと考えている。ドイツからはパイケン(フッ化サルフリル)による教会や博物館資料の爆蒸法が報告された。例えば,教会で進行中のシパンムシ被害は,建物全体を被覆する大規模;標蒸法等が紹介された。パイケンは臭化メチルより材質への影響が少ない慢蒸剤として,ダウ・ケミカル社が開発した薬剤である。低温で気化し浸透性にもすぐれ,成虫・幼虫に殺虫効力を示すが殺菌効力がない。空気滅菌装置は,図書館・博物館の収蔵庫や展示室の空気中に浮遊する微生物を滅菌して減少させる報告であった。本装置は,35m3の密閉空間で10日間作動させたとき90%以上の殺菌効果を示した。装置の構造は直径l〜2mm×lOcmのキャピラリー空洞100個前後を保有する約lOcmの立方体のセラミックが主体部である。これを電源に継ぐとキャピラリー空洞内が約250℃に加熱され,空洞内の空気は滅菌されて上昇し自然に対流し,その環境の空気は逐次滅菌される。連続作動しても3m3以上の密閉空間の温度は上昇しない。単純な装置だが,滅菌効果は確実で環境上も安全な空気滅菌装置として日本(中外テクノスK.K.)から発表された。微生物分離法に関して,オーストラリアの或教会のロマネスク式壁画の調査では,生物劣化の発生した条件をよく調査し,その条件を再現できる方法を見出したとき,劣化要因菌の分離が可能との報告があった。筆者もこれまでの実験研究から痛感しているところである。保存環境の研究として,環境の相対湿度(RH)と材質表面の水分値にずれの存在が報告された。種々の相対湿度のときの材質表面の水分膜の厚さ測定値が,70%RHのとき0.Olμm, 85%RHのとき0.lμm, 100%RHのときl.Oμm,結露では10.Oμmとの報告であった。筆者はカピの水分活性の研究で70%RH以下のときカピは殆ど発芽できず,75%RH以上80%RH前後になると絶対好調性のカピが発芽・生育することと関連して,興味ある報告であった。筆者の第5回国際文化財生物劣化会議(ICBCP5)への参加はICBCP本部役員としての役割,基調講演「カンボジアのアンコール遺跡における生物劣化」および共同研究「文化財の参加プロピレンによるアルプ慎蒸システムJの発表と第3セッションの3.考察650

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