鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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652~ ② 第7回イスタンブールビエンナーレ国際会議期間:2001年9月22日〜23日所:トルコ,イスタンブール報告者:イスタンブールビエンナーレ日本事務局住友文彦本シンポジウムは,「共生j,「集合意識」,「集合知性」という3つのテーマを掲げて開催された。前世紀は,西欧近代主義が大きな発達をみたにもかかわらず,物質主義,民族紛争などが未解決の問題として人類に残されている。20世紀に個人の自由を追求した結果形成された自我からいかに自由になるか,ということが今世紀には問われるであろうという問題意識がこれらのテーマの根底にある。それぞれのテーマを題目として3つのセッションが実施された。本会議の開催直前の9月11日におきたアメリカを標的にしたテロ事件からは,当然ながら大きな影響を被った。まずは,実際に会議に参加する予定だ、ったが,渡航不可能もしくは本人の意思により渡航を取りやめた者がいたこと。そして,また議論の内容においても,この事件について触れざるをえなかった。この事件は,アメリカを中心として進行している資本主義と世界警察的政治介入によるグローパリゼーションへ,ローカルな立場として位置づけられた宗教的原理主義者たちが抵抗しているのだと考えれば,むしろ今回の議論の核心に触れている,といえた。したがって会議の成果としては聴衆を含めた参加者全員の問題意識が先鋭になり,切迫した議論が展開できた。以下,各セッション別に議論の概要を報告する。セッションl「共生Jまず,ジェンズ・ホフマン(フリーランス・キュレーター,美術評論家,ドイツ在住)から,パフォーマンスという特定の分野が非アーカイヴ性を持っていることについて,いくつかの作品の事例を見せながら発表があった。しごく当たり前のことでありながら,美術館をはじめとする美術制度が存在する上で前提としている「全てを収集するjことが,倣慢なものとして考えられる視点を提供してくれた。カルステン・ヘラーという作家の「疑いの実験室」というプロジェクトは,自明なことを聞い直し,固定された文脈を軽やかに脱臼し続ける手法の重要さに気付かせてくれる。場

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