このセッションでは,ほかにサーシャ・ハギギアン(アーテイスト,ドイツ在住)が,ルネッサンス後期の思想家ジョルダーノ・ブルーノが唱えた地動説を巡って,多くの人々に信じられていた思考の枠組みを変えてしまう発想について述べる発表や議論があったが,この回はとくに日本からの参加者が加わることがなかったので,ほかは省略する。セッション3「集合知性jこの部会には,司会として参加予定だったジェーン・ファーパー氏がテロ事件のために渡航不可能になり,直前の調整も実らず司会不在のまま,題名の「集合知性」を実践するべく,お互いに発言を促しつつ議論が進められた。ピーター・ガルデンフォルス(認知科学者,スウェーデン在住)は,実際の知覚と頭で考えられた認識との隔たりをもとに,人聞が動物と違って「内なる思考Jを持っていることを説明した。さらにそれを外部化する試みとして,洞窟の壁に刻み込んだ絵画が生まれたとし,個人の内側に持っている外部世界の認識を他者と分かち合おうとした貴重な表象行為のステップを認知科学の面から位置づけた。アリ・アルパート・サラ(ホガジシ大学知覚知性研究所研究員,トルコ在住)は,まずインテリジェンス(知性)とは何か,という基本的な聞いを掲げ,現在のコンピューターの生みの親ともいわれるアラン・チューリングが提案した「チューリング・テスト」を例に取りながら人間以外のモノ,すなわち機械が思考していると確認するための定義づけについての考えを述べた。その際に重要と思われるのは,変化する環境への適応能力を機械が発揮するかどうかが鍵である,という。例えば,一度辿った道を次に通るときには最短距離を選ぶことができるかとか,相手の動きによってその裏をかくような行動を取ることが出来るか,といった能力である。サラ氏も関わっている,日本の北野宏明氏と浅野稔氏がはじめたロボ・カップというロボットによるサッカーの試合は,サッカーのルールを用いてロボット工学の発達を企図したものである。命令中枢(脳)と伝達手段(神経細胞)の組み合わせ次第では,より複雑な動きが可能になると述べていた。八谷和彦(アーテイスト,日本在住)は,自分の作品を簡単にまとめたビデオ画像を会場に流し,コミュニケーションを主題においた作品制作のコンセプトについて語った。コミュニケーションとは純然に正常に機能するものだけではなく,むしろデイ-655-
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