鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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(2) 頭部:原型の制作原型が粘土で作られたとすれば,それによって作られたブロンズ彫刻は複数であってもすべて「原作」であり,すでに存在するブロンズないし大理石を原型として使ったことが証明される場合には,それによって作られたブロンズ彫刻を「コピーjと呼ぶことができる。〔ポルテイチェッロの頭部BJの牝型が大理石像から取られたことが最近明らかにされたが,[マフデイアのヘルメ柱〕の頭部についてはそのような証拠は認められていない。(3) 頭部:牝型の制作コンピューター・トモグラフイー(コンピューター断層撮影)によって(Goebbels1994 ; cf. Go巴bbels-1985),頭部には全部で六つの牝型の接合部が認められた。ほぼ顔面1,後頭部1,右側面2,左側面2に該る(Willer1994 [HermeH] , 961Abb. 3 )。従って頭部は牝型を使った間接蝋型法によって制作されたことが分かる。(4) 頭部:鋳造原型の制作牝型の中にロウを敷き,ロウを取り外し,蝋型を組み立て,頭部を逆さにして鋳造土を充填した(Willer1994 [H巴rm巴H],962Abb. 4 )。次いで柱の鐸造原型の頂部に頭部の鋳造原型を乗せて鋳造原型を一体化し,表面をロウで仕上げた。この段階で右腕の出っ張りの前面に「作者の署名jが点刻された:rカルケードーンのボエートスが作ったJ(BOH,θOEι4JlKHiJONIOE E刀OIEI: Mattusch 1994, fig. 6, 10)。古代文献の伝えるボエートスは一人ではなく,その活動時期は前3世紀から前2世紀前半に比定されるため,この作品を前2世紀前半ないし中頃に置く考えもあるが(Linfert1994 ; Mattusch 1994),彼の死後その工房が師の名前を使い続けた可能性も想定される。115枚の断層写真をもとに,頭部のブロンズの内表面と外表面の違いを立体的/三次元的に視覚化することができた(Goebbels-1994,988-989Abb. 9 -10)。古代ブロンズ、の研究にこの方法が適用されたのはこれが初めてである。断層写真は完成した鋳造原型におけるロウの内表面(鋳造土=中型に接した面。その表面は中型の外形を示す)と外表面(外型に接した面)の違いを示しており,それを集積することによって,牝型の内面にロウを敷いて得られたロウ原型のどの部分に,より多くロウが肉付けされたかが分かる。その部分のブロンズは厚くなっている。肩に懸かる髪房とタイニアは内表面には全く認められないので,牝型から作られたロウ原型とは別個にロウで無垢74 -

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