鹿島美術研究 年報第19号別冊(2002)
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火しないように通路はおそらく粘土板で覆っておいた(Mahdia1994, Farbtaf. 33, 1 )。仕切り壁を築き,側壁との聞の空間で木炭を主とする燃料を焚いて鋳型を加熱する。一度に全体を加熱すると鋳型が破裂する虞があるため,加熱は下から上へと徐々に行う。ムルロで行われた復元実験によれば,ロウが完全に流出し,さらに鋳型に穆み込んだロウが完全に燃え尽きるまでには数日を要した。この作業の完了の時点は,ロウの排出口から出る炎の色が変わることから判断できる。(8) ブロンズを流し込む鋳造坑に砂,土,陶器片などを地面の高さまで充填し,堅く突き固める。砂の上に出ているのが見えるのは湯道と通気管の頂部だけである。士甘塙にブロンズの合金材料を入れておよそ1l000Cまで加熱し,湯口の漏斗から注ぎ入れる(Willer1994 [HermeH] , 965Abb.10)。銅の融点は10830C,錫を7%含むブロンズは10500C,錫を10%含むブロンズは10200Cである(Haynes1992, 83; cf. Lechtman -Steinberg 1970, 13fig. 13 ; Hirao -1998, 7 fig. 1 )。このとき発生する熔銅の圧力と,熔銅との接触によって粘土から発生するガスとのはけ口が湯道と通気管,およびロウの排出時に炭化した粘土中の有機物質であるが,排気が不十分な場合鋳型に亀裂が入ったり破裂したりする。排気が十分に行われでも通常はブロンズの表面に気泡が残る。〔マフデイアのヘルメ柱〕の鋳造が頭部を下にして行われたことは,いくつかの論拠によって証明される。まず頭部の方が柱よりも鉛の含有率が高いこと。柱の下部は13.0%,中ほどは17.7%,頭部の肩のあたりは17.5%,20.4%, 20.8%,タイニアの先端は22.1%である(Pemicka-Eggert1994, 1048Abb. 5 ,表2参照)。大型ブロンズの場合鉛の比率が高いと,ブロンズが凝固する際に鉛だけは粒状に遊離し,鉛はブロンズよりも比重が大きいために下に沈むのである。次に,頭部のロウ原型に装着されたタイニア部分が湯道ないし通気管としても機能するように工夫されていることである(Willer1994 [HermeH] , 963)。一般的に言って,鋳型の最下部には最も流動性の高い状態で熔銅が流れ込み,またかかる圧力も最も強力であるから湯が間々までまわる。最も労力をかけて制作した頭部を下にして鋳造することはきわめて自然である。しかし古代の大型ブロンズ彫刻はほとんどの場合頭部を別鋳したため,この方法が確認されたのは,今のところ前2世紀後半のこの〔マフデイアのヘルメ柱〕だけである。例えば前5世紀中頃の〔リアー-76 -

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