鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
12/592

2.「隠れた基壇」と未完成レリーフに関する研究に行われておらず、更なる研究の余地が残っていると思われる。ボロブドウールには、第一回廊から第四回廊の主壁と欄楯に、計1460面もの説話レリーフが施されている。膨大な数の石を積み上げ、さらに彫刻を施すには、非常に時間がかかったと思われる。したがって、ボロブドウール建造中に、レリーフの作風が変化したということは大いに考えられるだろう。筆者の研究テーマである「ボロブドウールの説話レリーフに関する様式的分析」とは、レリーフの作風とモチーフの表現方法の展開から、ボロブドウールの建造過程を明らかにしようというものである。この小論では、レリーフの作風とモチーフの表現方法の展開についての研究の前段階として、「隠れた基壇」の未完成レリーフに焦点をあて、ボ、ロブドウールのレリーフにおける彫刻工程を考察する。これらの未完成レリーフは、彫刻工程の様々な段階を示しており、重要な鍵となるレリーフだからである。レリーフは回廊のどこから彫られ、またー画面内ではどこから彫り始められたのだろうか。さらに一画面を何人の彫刻家が担当したのだろうか。未完成レリーフを詳細に調査していくことで、その一端が見えてくるだろう。「隠れた基壇jは、1885年にオランダ人の建築学者J.W. IJ zermanによって発見された。彼は計160面のレリーフを部分ごとに掘り返し、ジャワ人の写真家KassianCephas がその全写真を撮影したが、その後すぐに埋め戻してしまったため、現在は南東角の3面と半分のレリーフ(0.20、21、22、と23の右半分)(注2)しか見ることができない。Cephasの写真を元にして、数多くの「隠れた基壇Jに関する研究がなされ、今でも彼の写真が唯一の貴重な資料である。「隠れた基壇」のレリーフは因果の法を説いたMahak:armavibanga(『分別善悪応報経.!)に基づいて、良い行いが良い結果を、悪い行いが悪い結果をもたらすということを表している。2つの点で、「隠れた基壇」のレリーフは、ボロブドウールの他のレリーフと異なっている。この一連のレリーフには未完成のものがあるという点と、36面のレリーフの上枠に短い刻丈があるという2点である。これらの刻丈は、それぞれのレリーフの主題を表しており、彫刻家に彫るべきレリーフの内容を示していたと考えられている(注3)。「隠れた基壇jには、35面の未完成レリーフがあり(注4)、彫刻し始めたばかりのレリーフや、ほとんど完成しているレリーフなど、様々な彫刻の工程を示している。これらの未完成レリーフに関する研究で、彫刻工程について述べているものは数少2

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る