鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
122/592

れは青い背景のうえにまず白い長方形を貼り、さらにその上に白が波型に見えるように切り目を入れた赤い長方形を貼つである。一方その下の縦に伸びる白い波型は青い背景に波型に成形した白い形をそのまま張り付けてあり、同じ白の波型であっても双方はいわばポジ/ネガの関係にあることが分かる。また右端の黒い人物は予め鉛筆で素描したのちに切り抜いたことが素描が残されていることから了解される。1946年7月という制作年が書かれている。〈ロイヤル氏〉〔図4〕は図像のうちで最も平坦な印象を与える。それは個々の紙片を、貼っているのか切り抜いているのか判然としないほどに密着させて貼っていることから生じる効果である。結果として画面を構成する大きな色面聞の色彩の関係が強く打ち出される。制作年は1946年7月となっている。続く〈白象の悪夢〉〔図5〕には1943年という制作年の書き込みがあるが、〈馬と曲馬乗りと道化師〉〔図6〕には制作年が入つてない。これらの図像にも〈道化師〉のような紙片の継ぎ合わせが見られる。また〈サーカス〉のようにポジ/ネガの関係にある形態形成が見受けられる。〈狼〉〔図7〕の特徴は背景を複数かっ多色の色面で構成している点である。ことに奇妙なのは左の青の背景で、全く同じ色調の2枚の紙が重ねられている。左下の珊瑚状の形態が置かれた部分では、上に重ねた青の紙を方形に一部切り取って下の青の紙を見せ、その上に淡い青色の珊瑚状の形態を貼っているのである。1946年7月という制作年が記されている。続く〈心臓〉〔図8〕で興味をひくのは1946年7月の制作年が左右に入れられていることである。しかしこれは独立したふたつの図像ではない。灰色の背景は一枚に見えるが、実は2枚が重ねられている。背景は右の上に左が全体の3分の2にかかるようになっており、全体がひとつの図像であることを示している。この作品と構造的に類似しているのが〈運命〉〔図9〕であり、1946年7月の制作年がある。また〈フォルム〉〔図10〕も左右が相似的に構成されている点において類似が見られる。そしてこれにも左右に1946年7月の制作年がある。ただしこの場合は中央にうっすらと鉛筆による分離線がヲlかれており、その意味では〈心臓〉とは対照的である。この作品を特徴づけているのは左右の人型がポジ/ネガの関係になっている点である。〈イカロス〉〔図11〕は表紙を飾る作品でもある。1946年7月という制作年がある。青い背景に黒でイカロスが切り抜かれている。星はすべて同じ黄色で、あることから一枚の紙から切り取られたと思われる。星型には細かな切り込みがつけてあり、これによって鋭い角度を形成することができた。主題はギリシャ神話から取られているが、ここでは先行作品におけるように「失墜Jを表象しているとは言えない。なぜならイ

元のページ  ../index.html#122

このブックを見る