物の隆盛と合流し、多くのエッチング挿絵入り出版物を生み出している。絵画複製の領域では、エッチングは、写真技術による機械複製に対抗する芸術的な手製複製として高い評価を得ていた。さらに愛書家の世界でも、「新たに財を成した、投機家的で、好事家的な、新興ブルジョワジー」が登場し、エッチングを主な技法とする18世紀挿絵本の投機的市場が形成されていた。次にゴシェ=ルロワが強調するのは、カタログ収録作品の正統性、真正度である。この「真の愛好家が長く待ち望んだ改革Jは当時の大競売吏シャルル・ピエによって指揮されたもので、彼が「カタログレゾネ〔競売カタログ〕の優れた利用法を広めたいと願い、絵がどんなものかを暖昧に伝えるのではなく、競売に出された巨匠の作品を忠実に再現し、それ自身が版画家それぞれの才能の完全な発露となるような挿絵でカタログを満たそうと」し、『ガゼット・デ・ボザール』編集部へ相談に訪れたのだ、った。カタログレゾネとしての競売カタログの優れた使い方とは、後年のピエが競売カタログの挿絵について述べる以下の言葉からも容易に推察できる。「将来、きわめて貴重な情報となり、現代の芸術家たちの作品に彼らの自尊心をくすぐるに違いない後世へのパスポートを提供する」(注17)。すなわち、批評家に偽装した競売当事者の手によるこのサロン評では、収録絵画の品質や真正度を保証する強力な「カタログレゾネ」としての挿絵入り競売カタログの姿が描かれている。競売カタログの「芸術的」かつ「正確なj挿絵は、来歴や批評、あるいは著名な批評家による序文などと同様に、カタログ収録作品の価値を高め、支える重要な要素なのである。そして、挿絵自身の価値や正統性は、権威的情報源である『ガゼット・デ・ボザール』の協力や、著名な競売吏シャルル・ピエの指導的役割、あるいはサロンへの出品等々といった要素によって支えられている。実際、たとえばローラン=リシヤールが再び1878年に開催した競売のカタログには、作品来歴としてラ・ロシュブ…侯爵とパパンの名前がしばしば記され、作品の「お墨付きJを増やす役割を果たしている。一方、ラ・ロシュブ…侯爵の競売カタログにおけるレイパーンの作品解説では、この絵は「『ガゼット・デ・ボザールJで版画化されている」という新たな参照源が示され、『ガゼット』の記事では、「誰よりも芸術的で、明敏で、権威ある批評家Jw.ピュルガーの名が近世イギリス絵画の価値を保障し・・・。われわれが相手にしている歴史研究自体、こうした参照源の入れ子構造から完全に自由であるとはいえないが、ここには画家や作品の価値が形成されるメカニズ、ムが露わになっている。以後、1880年代頃まで、エッチング挿絵入り競売カタログは、ここで取り上げた『ガ146
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