ー73.4.モチーフによる分業の可能性4.おわりにい。より多くの作例と証拠が必要である。これまでに、多くの樹木のモチーフが未完成であることを述べてきた。一画面のレリーフにおける分業の可能性を調べている聞にも、樹木のモチーフが未完成で、あることが明確になった。このことから、彫刻家がモチーフによって分業していた可能性も考えられるのではないだろうか。もしこの仮説に従うならば、なぜこれほど頻繁に樹木のモチーフが未完成で、あるのかということを、以下のように説明できるだろう。まず、画面内で人物のようなより重要なモチーフが彫刻された。その際、人物を担当した彫刻家は樹木のモチーフには全く関与せず、人物のみを彫っていった。次に、樹木のモチーフを専門に担当する彫刻家が、樹木を彫っていったのである。同じことが他の未完成のモチーフ、すなわち台座、屋根、建物の基礎部分、台座下の道具にもいえるだろう。それぞれのモチーフに専門の担当者がいたと考えるのである。一方で、彫刻家には、モチーフを彫刻する順序に関して規則があった可能性も考えられる。最初に、彼らは人物のような主要なモチーフを先に彫り、それ以外のモチーフは後で彫るという規則があったのではないだろうか。「隠れた基壇」の説話レリーフでは、人間の良い行為とその良い結果、また悪い行為とその報いが表されているため、より重要なモチーフは人間である。樹木や台座などのモチーフは、説話の場面設定には欠かせないモチーフであるが、あくまでも附属的なものである。レリーフの重要な部分を、まず完成させるという規則に従っていたと考えるのである。「隠れた基壇Jに見られる未完成レリーフの調査をもとに、彫刻工程に関して考察してきた。その結果、以下のように結論付けることができるだろう。彫刻家は、経典の順序に従ってレリーフを彫っていったのではなかった。このことは、印された基壇」の未完成レリーフの位置を考えると明らかである。説話が始まる東側にも、未完成レリーフが見られるからである。多くの彫刻家、あるいは彫刻チームが同時に何ヶ所かで仕事をしていたのだろうと考えられる。まず、それぞれのレリーフ画面の上枠に刻まれていた、モチーフあるいは経典の主題を示した刻文に従って、彫刻家は作業に取り掛かった。彼らは、いつもレリーフ画面の右から左へと彫刻を進めていったわけではなかった。人物などの主要なモチーフの輪郭をとることから始め、その後でモチーフの詳細部分や立体感を加えていった。
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