鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
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⑮〈奥原晴湖粉本資料〉の分析と目録作成研究者:相模女子大学非常勤講師平井良直はじめに古河歴史博物館には、明治期を代表する閏秀南画家・奥原晴湖(天保8〜大正2/1837〜1913)に関連する、奥原家旧蔵の歴史美術資料が収蔵されている。その中核をなすのは、晴湖旧蔵の模本・縮図類および和書漢籍、ならびに、晴湖に終生近侍した門人・渡辺晴嵐(安政2〜大正7/1855〜1918)旧蔵の模本・縮図類であるが(注1)、こうした粉本類の一括資料として、この〈奥原晴湖粉本資料〉は、わが国屈指の規模であるといってよい。同資料に関しては、平成10年(1998)より、筆者が単独で調査研究に着手して以来、その成果を逐次発表してきたが(注2)、今般、調査の終了と資料目録(注3)の完成を機に、粉本類の分析的考察を試み、その絵画史的価値を明らかにしたい。但し、本稿では、考察の範囲を等寸大一枚物模本および画帖・画冊類の模本に限定する。縮図帖・手控帖については、そこに収載されている原画数が一層膨大であるため、その検討は別稿に委ねたい。さらに、款印写しが唐宋元代の画人名を示すものに関しては、摸者が嘱目した当該原画が真蹟である蓋然性の高さを必ずしも保証し得ないため、ここでは、考察の対象を明清画の模本に限る。1.粉本の主題別分析と考察上記の粉本類に関して、落款印章写しに基づいて画史画論等(注4)を参照し、原本筆者を特定したのち、これを年代順に配列し、字号・画派画系等の情報を付して、全体を粉本の主題別に分類したものが、別掲の〔付表〕である。なお、粉本類のなかには、これ以外にも無款のものや落款写しの判読不能のものが多く、また、原本筆者が逸名の画人である場合も少なくないが、本稿においてはそれらは考察の範囲外とする。以下、付表の記載データに基づいて粉本の分析と考察を試みるが、その際に比較対象として、晴湖の画系の祖である谷文晃の場合に注目したい。幸い、文晃の明清画学習という問題に関しては、これまでに河野元昭氏らによって多くの論考や資料紹介がなされている(注5)。ここでは、それら先学の研究成果に基づきつつ、両者の比較検討を進め、晴湖の画房における粉本集積の傾向・特色を明らかにするつもりである。162

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