ここで注目されるべきは、主イーワーンの左右に縦型の長方形のパネル部分〔図2マスジッド・ジャーメ、下絵付けタイル・パネル〕で、コバルトブルーの濃淡と黒の縁取りで彩色された下絵付けタイルが、左右532枚ずつ張られ、各タイルのサイズは約18. 5cm2で、パネル全体は、それぞれ縦7.9m横2.78mである。それ以外に、小さな横型パネルが左右2枚ずつ、更には隅に細長い縦型パネルが2枚ずつ、そして両側の壁面にも同じく細長い縦型パネルが1枚ずつ設置されている。向かつて最左側の横型パネルのタイル一枚には、1321年(1942/43)と、ケルマーンの工房で作られたとの銘文が下絵付けされており〔図3マスジッド・ジャーメ、記年銘タイル〕、今回の観察によって半分以上の下絵付けタイルがこの時に取り替え、あるいは補充されたことが確認できた。これらのタイルは、色彩が淡く諺んでいて、表面の透明粕も濁り、多くのひび割れが見られることから、それ以外のタイルとは明確に区別が可能で、ある。より古いと見られるタイルは、どれも色彩が鮮明で、柚薬も透明度が高く、上質の素材と高い温度で焼成されたことが推測される。パネル全体の文様は、ティームール朝以来のレパートリーに加えて、元・明代の中国陶磁の意匠から派生し、様式化された唐草文や蔓草文を軸に、蓮華文や牡丹文、飛雲文など多岐に及んでいる。各モチーフは、平面に均質に配置され、視点が特定の箇所に固定されることがない。複数の枝がS字型に曲折しながらお互いに交差し、様式化された花や実、葉などがその枝から分かれている。これらのどの特徴を見ても、前述のサファヴィ一朝期の陶器と比肩し得る高い完成度を見せている。〔図4マスジッド・ジャーメ、タイル・パネル部分〕・羽毛状の葉文様それらの多様なレパートリーのなかでも、とりわけ特徴的なモチーフが注目される。それは、S字型に湾曲した羽毛状の葉文様で、中心の葉脈に沿って2本の線が入れられ、中間は白地のまま残すことによって透かしの効果が得られている。その周囲はちぎれたようにぎざぎざになっている。〔図5マスジッド・ジャーメ、羽毛状の葉文様〕マスジッド・ジャーミのタイルには、この羽毛状の葉文様が多く用いられており、中心の葉脈が白地のものと、黒い線が一本引かれたものの2種類あり、しかも中心の線によって左右に分割された葉が、それぞれブルーの濃淡によって描き分けられている。この文様は、17世紀前半の作と考えられる陶器においても多用されており、ここに見る作例では、蓮の葉から派生した植物文と共に描かれている。〔図6、7鉢、ヴイクトリア・アンド・アルパート美術館蔵、no.8851876〕これをケルマーンのタイルと並べて比較すると、両者の形態の類似性は明らかである。また、このモチーフは、イスファハーンの王のモスク内部のクエルダセカ技法で描-185-
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