1612年に着工、1638年に完成した。王のモスクのタイルは、色彩と技法が異なるものかれたタイルの装飾デザインの中にも認めることができる(注6)。技法と色彩が異なってはいるものの、青の濃淡三色で描き分ける方法は同じである。この王のモスクは、の、その様式からいって、ケルマーンのタイルと各構成要素が類似することから、その同時性が認められる。ケルマーンのマスジッド・ジャーメの下絵付けタイルは、17世紀前半の陶器に見られる技法、意匠との共通性、またイスファハーンのタイル装飾との類似性から見ても、その年代を17世紀前半から中葉にかけて製作されたと設定できる。b.マスジッド・エマームのタイル装飾ケルマーンには、もう一つ重要なモスクが現存する。マスジッド・エマーム(あるいはマスジッド・マリーク)は、セルジ、ユーク朝時代(10511220)の建造であるが、現存しているのは、ミナレットの一部、ミフラーブ、そしてイーワーンの一部のレンガ装飾のみである。現在大規模な修復中であり、大部分は改築されたものである。その主イーワーンの、通路と中庭に面した両側4面の壁面にタイルが張られている。ここには幾種類ものデザインのタイルが混在していて、全く計画性が見られないことから、他の建築からの転用であろうと考えられる(注7)。〔図8マスジッド・エマーム、タイル・パネル〕しかし、そのことがかえって、多様なタイルの見本帳のような役割を果たしている。いくつかのタイプが挙げられるが、まず、白地にブルーの濃淡で文様を描いたもの、次に青に、黒、赤、紫、褐色を加えたものがあるが、八角形の星形の枠の中に花束が置かれたタイル〔図9マスジッド・エマーム、倣オランダ・タイル〕は、17世紀前半のオランダのタイルをモデルにしている。・「風景」描写のあるタイル内部のミフラーブの両脇にはアーチ状の通路があり、その床面には、やはり外音防、ら運ばれたタイルが無造作に貼られていた(注8)。そのうちの一枚は、風景の一部が描かれている。〔図10マスジッド・エマーム、「風景画」タイル〕図柄は、上部に帯状の線が重なるように描かれ、その下には岩と草が連続して描かれている。この図柄は明らかに風景の一部を描写したものであり、かつては大きなパネルを構成していた一枚であったと考えられる。それがどのようなものであったかは想像に頼る他はないが、17世紀初頭のイスファハーンの宮殿の一つを飾っていたクエルダセカ・タイル・パネルには、同じく、岩の脇に生えた草花と、山あるいは丘の稜線を縁取るように描かれた、幾重にも重なった嫌描が確認できる(注9)。ケルマーンのタイルも、色彩、様式ともに差異はあるものの、おそらくこのような人物像の背景186
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