鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
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⑫ マックス・工ルンストにおける「地震tremblementde terre」の主題について研究者:大阪大学大学院文学研究科博土後期園吉貴奈はじめにマックス・エルンスト(MaxErnst : 1891-1976)の作品カタログを通してみたとき、我々はそこに様々な手法、表現スタイルで制作された作品の数々を見ることができる(注1)。主題やモティーフも多様を極め、芸術家の豊かな創造性を知らされる。しかしエルンストの作品には、常に、自然界への関心が付きまとっているのを指摘することができる。分身としての鳥、父によってイニシエーションを受けた森、静誰さを見せつつ水面下で、うねる海。エルンストは自らを自然と同化させつつも、人間の侵入を受け付けない、神聖な自然を表わす。そこには、シュルレアリスムという枠に捉われない、エルンスト独自の芸術観が考えられる。そのような自然界のテーマのなかに、さらに、自然現象のテーマが認められる。「地震」、「火山活動」、「大気現象」、「光の現象」といった自然現象が、風景として、あるいはその一部として描かれているのを見ることができる。これらの自然現象は、例えば自然科学雑誌『ラ・ナチュールJにみられるものである。エルンストは自らのテキストにおいても自然現象に言及することがあり、このテーマがエルンストにおいてなんらかの意味を担っていたことが伺えるのである。ところがこれまでの研究において、自然現象の主題は詳しく言及されることはなかった。取り上げられたとしても、わずかに触れられるに留まっている。本稿では、自然現象のひとつとして、エルンストによって継続的に取り上げられた地震の主題を取り上げる。なかでも、地震の主題が登場した1920年代前半の作品を取り上げ、その時期形成途上にあったシュルレアリスムとの関連のなかで考察する。1.「地震tremblementde te汀e」の主題地震の主題はエルンストにおいて、どのように捉えられているだろうか。エルンスト作品において「地震tremblementde te汀巴(あるいはearthquake)」という言葉をタイトルに含むものは、20点確認できる(注2)。その大部分は、1920年代に制作されている(注3)。表現について言えば、1920年代前半は変化に富んで、いるのに対し、それ以降は一定化しているということができるだろう。最初の作品はインク素描の海景画であるが〔図l〕、次には油彩画になり、描かれる舞台も海から陸へと移っている〔図2〕。続く作品は、やはり油彩画だが、視線は地中225

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