② ティツィアーノの「ポ工ジア」研究研究者:慶鷹義塾大学大学院文学研究科博士後期課程細野喜代ティツィアーノ(1490頃1576年)は1550年代前半から、スペイン王フェリベ二世(1527-1598年、在位1556-1598年)のために、自ら「ポエジアjと名づけた、オウイデイウスの『変身謹Jに取材した神話画を制作し続けていた。本稿で取り上げる〈デイアナとアクタイオンDianae Atteone} (エデインパラ、スコットランド・ナショナル・ギヤラリー、サザーランド公寄託)(注1)、〈デイアナとカリストDianae Callisto} (エデインパラ、スコットランド・ナショナル・ギャラリー、サザーランド公寄託)(注2)は、「ポエジア」の一部として、1556年から1559年にかけて制作された。アクタイオンの物語は、狩人アクタイオンが、狩の途中で、狩の女神デイアナとニンフたちが狩を終えて水浴しているところを目撃したため、裸体を見られたデイアナが怒って彼を鹿に変えるというものである(注3)。本作品は、水浴中のデイアナがアクタイオンに不意を襲われた瞬間を表している(注4)。一方、カリストの物語は、デイアナのお気に入りのニンフ、カリストに恋したユビテルが、デイアナに姿を変え、彼女と交わりを持った。カリストはユビテルの子を身篭ったことを隠していたが、ある日、デイアナ一行が狩のあとで水浴したとき、カリストの妊娠が明るみに出てしまい、怒った処女神デイアナが彼女を仲間から追放するというものである(注5)。本作品は、デイアナの命令でニンフたちによってユビテルの子を妊娠していたカリストの衣服が剥ぎ取られた瞬間を表している(注6)。先行研究では、占星術的意味解釈(注7)、寓意的・教訓的意味解釈(注8)に対し、「ポエジ、アJのエロティックな効果をそのまま受けとめるべきだという主張(注9)、文学的典拠(注10)、形態の源泉の指摘(注11)、X線調査の分析(注12)、レプリカとの比較(注13)、「ボエジアj全体の再構成(注14)などがなされてきた。本稿は、本二作品が狩の女神デイアナを主人公としており、狩という共通のテーマを持っていることに注目する(注15)。狩のテーマは、本二作品だけでなく、〈ヴィーナスとアドニスVeneree Adone} (1554年、マドリッド、プラド美術館)(注16)、〈アクタイオンの死lamo rte di Atteone} (画家が1559年6月19日付のフェリベ宛ての手紙で言及(注17)、ロンドン、ナショナル・ギャラリー)(注18)の「ポエジア」にも共通である。前者は、狩人アドニスが恋人ヴィーナスの忠告を聞かずに狩に出かけ、猪に殺されるという物語で(注19)、後者は、デイアナによって鹿に変えられたアクタイオ序-14 -
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