鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
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注(3) シュピースがエルンストから聞いた話として報告するところによると、1922年の〈海、海岸そしすんでいるからだ。すでにシチリアやサルデーニャは支配下におさめた。えもいわず感度のよいあの計具類の記録する振動は、じつは私たちが気まぐれにひきおこしているものなのだ(注10)。ここではある一団が地中を掘って進みながら、ゲリラのように町々を襲うことが語られている。その一団の動きは、地震の揺れのようなものとして表わされ、無秩序をもたらす存在として語られているのである。ここで、エルンストの記述が思い出される。そこでは地震が人間を象徴し、逆に世界に秩序を与える存在であった。そして『ナジャ』にも、地震のイメージが見られる。千里眼的な能力をもっ女性ナジャとの日々を記した文の最後に、次のような一文を見出すことができる。「人の心、地震計のように美しいもの」(注11)。ここで地震計は、人間の微妙に揺れ動く意識に比して語られている。このような地震イメージは、エルンストの描く地震に重なるといってよいだろう。地震の主題は当初、穴のある風景画として表わされた。そこでは穴は風景の向こうの世界を暗示し、地震はその開示を促す力と捉えられた。新しい現実の出現は、シュルレアリスムにおいて、無意識の世界を探求することによって可能となることだった。その後地震は、意識の絶え聞ない動きの象徴として、「地平線、天体、線」の作品において、波動として表わされるようになった。その表現は、無意識の世界に比される海の主題や湾岸流の主題とも近い関係を持ち、エルンストにおいて定型化したものとなるのである。シュルレアリスムが成立した1920年代前半、地震は現実の改革や意識の揺れと連関するものとして捉えられたということができる。(1) Max Ernstαuvre-Katalog, herausgeg巴benvon W巴m巴rSpies, Menil Foundation und DuMont, 1975 1998. 現在、エルンストの作品は1963年まで編纂されている。(2) 「地震」主題の確認には、以下の丈献を参考にしたaMax Ernst CEuvre-Katalog, Edward Quinn, Max Ernst, Barcelona : Edicion巴sPoligrafa, 1976. , William Camfield, Max Ernst : Dada and the dawn of surrealism, Mtinchen : Prest巴1,1993. Kiiln : DuMont Buchv巴rlag,1988. p46. (4) Max Ernst, Ecriture, Paris: Gallimard, 1970. p267. (5) フインガーは内部が空洞になっているイメージについて、「殻のモティーフj「関かれた身体Jというカテゴリーで論じている。LuiseFing巴r,‘MaxEmsts protosu汀ealistischesWerk Aspekte zur て地震〉は地震がテーマとなった初めての作品だというoWerner Spies, Max Ernst Collagen, 230

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