そのような中、江戸時代中期に、国内仕様の十位香道具そのままの姿で、海外に輸出されていたことが確実な新資料が発見された。ザクセン選帝侯でポーランドの国王となった通称アウグスト強王(1670-1733年)のコレクションに含まれる小型の香棚である。当時のヨーロッパでも屈指の東洋趣味実践者であり、伊万里焼の膨大なコレクションを有し、マイセン焼きの発明を命令したことでも知られるアウグスト強王は、ドレスデンには「日本宮殿」、郊外のピルニッツには愛人のために中国趣味の離宮を建てていた。この「日本宮殿」の1721年の収蔵品目録に収録され、現在ピルニッツ宮殿の収蔵庫に保管されているのが「花鳥蒔絵十位香棚j〔図4a, b〕である。以前、この目録の記載に一致する作品を集めた展覧会が聞かれたが、その際見落とされていたようだ(注46)。現存するのは棚の枠と、厨子扉一枚、引き出し三段と外れた棚板一枚である。天板左端に筆返しをつけ、棚の側面と背面には四弁稜花形の銀縁を付された窓を穿ち、一つの引き出しには硯と水滴を失った下水板をはめ、別の引き出しには火道具類を受ける桟を持つ。天板と厨子扉には岩に梅竹と鷲らしき鳥が、棚の枠や引き出しの側面には多種多様な花の折枝が、金青金の薄肉高蒔絵、金付描、金切金で描き出され、内部は斑梨地に仕立てられている。高さ20.2cm、幅24.7cm、奥行10.lcmである。上記の展覧会の図録に掲載された1721年の目録の当該箇所を全文訳してみよう(注47)。なお、法量の単位は原文ではZollであったが、lZo11=2. 54cmと換算し、小数点以下二桁目以降を四捨五入して、メートル法で表記した:N0.59:黒と金で浮き彫り模様を施した美しいインド製の漆塗りで、あちらこちらに窓をあけた、四脚を付けた棚。以下に掲げるものを内部に収める:よみ上段には美しい漆塗りの引き出しがあり、外側は同様に漆塗りだが中には穴が一つ開けられた朱色の蓋がある。引き出し内部には長方形をした、灰色で上部を金箔で縁取られた石や小さい楕円形をした銅製の器具(660)があり、これには中央に円い穴があり、また小さな突起を持つ。加えて二つの穴のあいた薄板があり、その穴の中に先の二点が収まるようになっている。ゑ人〈銀を施した二枚の扉を持つ厨子。四脚を持った三段重ねの小箱が内蔵されているが、その最下段は裏打ちされている。また一枚蓋がある。この箱は高さ5.7cm、長さ6.4cm、奥行5.lcmo ゑムハ扉のない、さらに一つの空の仕切り棚。四脚を持った茶盆が入れてあり、長さ12. lcm、幅9.5cm;そのうえに蓋のついた同様の四角形の箱があり、これは高さ6.4-241-
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