弘序⑨ レイデン時代のレンプラン卜とリーフェンスの人物像素描一一二つの〈東洋の兵士>(Benesch 3司4)の帰属と機能について一一研究者:東京芸術大学大学美術館非常勤講師熊津レンブラント・ファン・レイン(160669)の素描制作は、彼の画業の初期を飾るレイデン時代(1625-31)においては、チョークによる人物像素描が中心をなしていたことが知られている。それらの中で、彼の最初のチョーク素描である〈東洋の兵士〉(ミュンヘン国立版画収集館、以下ミュンヘン素描)〔図1〕と、ほぼ同じ外観を持つもう一つの〈東洋の兵士〉(ドレスデン国立版画素描館、以下ドレスデン素描)〔図2〕は、作品帰属と、制作全体の中での人物像素描の機能に関して様々な議論を喚起した作品であった(注1)。この三つの問題は、レイデン時代の素描全般に対して繰り返し議論されているもので、特に前者については、この時期にレンブラントと工房を協業していたヤン・リーフェンス(1607-74)の素描との関連性が注目されている。これらの問題は、当時のレンプラントの素描制作問題の出発点となっており、レイデン時代の作品にしばしば見られる同様の問題を解決する契機となると考えられる。本論では、この二つの素描の描法分析を行うとともに絵画作品との関連についても調査を行った研究報告を行うとともに、初期レンプラントの素描様式と制作の上での独白性を明らかにすることを目指すこととする。1.作品記述と研究史について記述まず、ミュンヘン素描とドレスデン素描の外観を記述するとともに、過去の研究から浮き彫りにされた様々な問題点を提示しておきたい。この二つの素描には、縦長の画面に、横向きやや後ろの視点から捉えられたプロフイールの人物が表されている。両者のポーズやモティーフはほぼ一致していて、頭部には羽のついた甲胃を被り、腰には剣をさしている。この兵士は上半身を前屈みにして、左手を腰に回して休めている。左手の曲げられた指の形や上半身の細かい衣服の暗示などから考察すると、この二つが同じモティーフに基づいて描かれたことは間違いない。この二つの作品はともにラフな筆致のチョークによって描かれ、脚部や胴体の前面には、幅広い不規則なハッチングの陰影がつけられることで、コントラストの強い明暗表現が見られる点も共通している。制作年としては、同時期のペン素描の筆-339-
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