鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
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この図像プログラムは、翼廊部の東西壁及び身廊部の四壁面の帯状になった二層(上・下)、翼廊部の南北壁の三層(上・中・下)から構成されている〔図1-a〕(注6)。翼廊部の南北二壁のプログラムのみが三層で構成されていること、また、全ての壁面の下層部は複数の門を持った連続する城壁が描かれ、さらに上層部は独立した形式の画面であることから、全体のプログラムから受ける印象は、複雑なものである。この壁画プログラムは、壁面の上層部には宮殿のような建物が描かれ、下層部には天蓋からカーテンが垂れ下がる城壁開口部、そしてそこから垣間見えるいくつもの図式化された教会が表現される(注7)。また、壁面の上層・下層はともに垂れ下がったカーテンや古代風の幾何学的及び植物文様の装飾で埋め尽くされている。このような建物や文様の表現、ならびに帯状に分割される壁画形式は、西ヨーロッパの聖堂というよりは、帝政ローマ期の世俗建築の壁画や舞台装飾の書割、東方の聖堂内を飾るモザイクなどを想起させる。類似例としては、ネロ帝のドムス・アウレア〔図2〕や紀元後l世紀のポンベイ第II.第百様式の壁画といったローマ帝政期の作例、そして古代の作例から引用されたテサロニキのアギオス・ゲオルギウス聖堂の装飾などが挙げられる(注8)。唯一キリスト教の宗教建築らしい構成要素は、そのプログラムの上層中央にある十字架図像である。これは聖堂の東西軸線を貫くように、翼廊部及び身廊部それぞれの東西壁の最上層中央に四回繰り返されて描かれている〔図1-b部分図〕。この十字架図像〔図1-c部分図〕はシュルンクの解釈によれば、真実の十字架であり、天上のエルサレムを示すものである(注9)。この十字架図像は48の貴石(注10)で装飾され、アルファとオメガの文字をアームに持ち、キリスト像を伴わない。ラテン十字形であらわされたこの十字架は、描かれたアーチの下に位置する。十字架図像の両側に二棟の建物が左右対称に描かれている(注11)。人物や動物を全く描かずに建物表現やカーテンなどで構成された壁面は、内陣に向うその中心志向性及び上昇性が強調され、上層部中央の十字架図像に視線が集まるようになっている。このように、サントゥリャーノには、徹底的に偶像の入り込む余地を排除し、その中心に具体的な崇拝対象である十字架表現を据えたプログラム編成であることがわかる。サントゥリャーノ以外に十字架図像をアルフォンソ二世が寄進した例としては、彼が808年にオピエド聖堂に寄進した〈天使の十字架〉〔図3〕(注12)がある。これはサ-351-

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