カットアウト④ ジャクソン・ポロックのカット・アウト・シリーズマティスとピカソの同化の試み一一研究者:ニューヨーク市立大学ザ・グラデユエイト・センタージャクソン・ポロック(191256年)は1948年に〈カット・アウト〉〔図1〕という作品に着手している。現在の〈カット・アウト〉は、中央が人のような形に切り抜かれた厚紙と、これに裏から貼り付けられたキャンヴァスから成っている。この作品はこれまで1950年頃にポロック自身の手によって現在の形に完成されたと考えられてきた。その1950年頃という制作年代の下限に対する主たる根拠は、1950年に撮影されたポロックのスタジオの写真〔図2〕である。その写真の背景には、まだキャンヴァスの裏張りが施されていない状態の〈カット・アウト〉が写っている。しかし、1956年のポロックの死後まもなくに撮影された別のポロックのスタジオの写真〔図3〕に着目したT・J・クラークが、そこにはなお現在の裏張りが施されていない状態の〈カット・アウト〉が写っていることを1999年に指摘した(注1)。その写真では、中央が空虚のままの〈カット・アウト〉が、上下逆さまにされた〈黒と白の絵画II}〔図4〕というポロックの別の作品の上に重ねて置かれている〔図5〕。この問題については既に別の論文(注2)で議論しであるので、紙幅の都合上本論文では詳しく立ち入らないが、この問題の要点を簡潔に述べるならば、それは次の通りである一一一〈カット・アウト〉という作品は、1956年のポロックの事故死のために実は探究途中にして未完成のままに残されたものであり、この作品にとって美学上極めて重要な意味を持つ裏張りの部分は、ポロックの死後1958年に、彼の妻のリー・クラズナーの指示によって現在のように施された。かくして、〈カット・アウト〉に現在施されている裏張りがポロック自身の選択によるものではない以上、同作品は本質的な再解釈の必要に迫られる。〈カット・アウト〉の他にもポロックは1948年から49年にかけて、〈カット・アウト・フィギュア〉〔図6〕等、同様に切り抜きの手法を用いた作品を五点制作しており、それらはポロックの画歴の中で一つの重要なシリーズを形成しているが、〈カット・アウト〉がこのカット・アウト・シリーズの中心的作品であることを考えれば、事態は同シリーズ全体の再解釈の必要にまで拡大されよう。本論文では、〈カット・アウト〉を中心としてポロックのカット・アウト・シリーズを、マティスとピカソという二人の近代の巨匠の芸術との関係において新たな角度から解釈し直す。そこからは、これまで凋落期とみなされ美術史学科博士課程大島徹也-29
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