がクーマラスワミによって補充され、出版に至ったものである(注7)。インドの宗教に関連する説話を平易にまとめたこの著書の内容は、インドを代表する古典文学『ラーマーヤナ』、『マノ\ーパーラタJの概略的な紹介、クリシュナ神やシヴァ神にまつわる神話、そして仏教説話に及んでいる。クーマラスワミによる「序文」(注8)には、「文盲の身分の低い者たちによって語り継がれてきた説話(プラーナ)」や、「民謡のなかに伝承されたもの」、「寺院に残されている神話を刻んだ彫刻」などから材を得るよう努めたと記されており、本書の意図が、インド土着の文化を掘り起こすことにあったと理解できる。またこの初版においては、オボニンドロナトをはじめとするベンガル派の挿絵32点がカラーで掲載されていた。それは以下の通りである。・オボニンド口ナト・タゴール「仏陀の勝利」「菩薩の六牙」〔図l〕「シッダールタの出家J「苦行をする仏陀」〔図2〕「解脱」−ヴ工ンカタッパ「ラーマの結婚」「マーリーチャの死」「ジャターユと闘うラーヴァナ」「シーターに指輪を送るラーマj「ランカーの炎上」「ラーマの橋をつくるj「ラーマの帰還」・ノンドラル・ボシュ「ガルーダ」「エーカラクチャ」「王子の追跡」「魔術小屋」「キラータールジュニーヤJ「ユデイシュテイラ」「クリシュナの誕生」〔図3〕「ウマーの修行」「毒を飲むシヴァ」〔図4〕「ヤマとナーチケータス」−シュレンド口ナト・カール「アルジュナに教えを授けるクリシュナ」(図5〕「カーリー」・キテインド口ナ卜・モジュンダル「カリーラとデイムナ」「ラーダとクリシュナ」〔図6〕「シヴァの踊りJ「ガンガーの誕生」「マサナー・デピ」「プルーラヴァス」「ダマヤンティー」〔図7〕−オシッ卜・クマル・ホルダル「ドルヴァ(永遠)」〔図8〕以上の挿絵を見ると、ヴェンカタッパの作品のなかに、濃彩による綴密な描写を主とする作品が数点ある他は、ウォッシュ・テクニックによる淡い色面が効果的に生かされた作品が多い。この挿絵本に見られるウォッシユ・テクニックを検討する前に、この技法について簡単に述べておくと、およその手順は冒頭に引用した洗鱗の言葉の通りである。また、ノンドラルがこの技法について解説した文章には、更に詳しく工程が述べられている。それをみると、まず、「紙や絹に木炭で下描きJをし、「‘透明’な色彩のウォッシュが一度ないしそれ以上繰り返されJ、最後に、線描や陰影などの細部描写を施す、とある(注9)。また、常に湿った画面に彩色をすることや、塗り重ねた色彩が濁らないよう、透明な色彩を選ぶことが重要だとも記されている。なお、こ-380-
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