軽視されてきたポロックの後期の芸術に対する新たな見方も最終的に呈示されよう。ポロックのカット・アウト・シリーズの再考察における重要な着眼点は、マティスの『ジャズ』および、これと密接に関係する同芸術家の切り紙絵との関わりである。『ジャズJは1947年にフランスで出版された後、1948年にアメリカで次の三つの機会に展示されている。(1)「アンリ・マテイス一一一『ジャズJ、編者テリアード」展、1月20日2月3日、ピエール・ベレスInc.(ニューヨーク)。(2)「アンリ・マティス一一芸術家との協同で組織された絵画、素描、彫刻の回顧展J、4月3日−5月9日、フィラデルフイア美術館。(3)「マテイス:ジャズー←芸術家の贈り物」展、10月131日、ニューヨーク近代美術館。これらの内の少なくともいずれかの機会にポロックがマテイスの『ジャズ』に触れ、そこから何らかの影響を受けたことはおそらく間違いない。とりわけポロックの〈カット・アウト〉は、『ジャズ』の中の〈道化師〉〔図7〕や〈水槽の中で泳ぐ人〉〔図8〕を強く想起させる。〈カット・アウト〉と〈道化師〉との関連は、1999年にジェレミー・ルイソンによって次のように論じられている。〈無題(カット・アウト)〉、〈無題(カット・アウト・フィギュア)〉と『ジャズ』の口絵[〈道化師〉]との間には著しい類似性があり、『ジャズ』の口絵では、腕の一部が切り落とされた白い人物像が黒い地と対比されている。二つのポロック作品の内の最初のものは、人物像をキャンヴァスの白い切り抜き、穴抜きとして表しており、マティスのイメージが生み出したイリュージョンを反響している。二つ目の作品では、ポロックは最初のものから薄く切り出した人物像を黒い地に当てており、再びマティスを反響している。(注3) このようにルイソンは「白い人物像と黒い地の対比」という問題において、ポロックの〈カット・アウト〉と〈カット・アウト・フィギュア〉をマテイスの『ジャズJの中の〈道化師〉に結び付け、両者の聞の類似性、あるいはさらに影響関係を指摘しているのだが、しかしルイソンはそこで一つの大きな問題を論じ損ねている。すなわち、ポロックがマティスの『ジャズ』に見たものは、その中の一枚である〈道化師〉に見られる「白い人物像と黒い地の対比」というような個的かっ表層的な問題ではなく、むしろ『ジャズ』全体の背後にあるマテイスの切り紙絵の美学だ、ったということである。1952年にマティスは、『ジャズJの着想をどうやって得たのかというアンドレ・ヴ30
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