9〕では繊維板の上にポーリングの技法などで絵具がオールオーヴァーに塗布されたェルデの問いに対して次のように答えている。「前もって彩色された何枚かの紙に鋲でデッサンすることによってです。線を色彩に、輪郭を面に結び付けるために同じーっの動作でやったのです。着想、は単にそれらを結び付けることから生まれたのでして、それをテリアードが一冊の本にしたのですJ(注4)。このような「デッサンと色彩の一体化jという観点からこそ、ポロックのカット・アウトに対するマテイスの『ジャズ』の影響は論じられねばならない。マテイスの切り紙絵は次のような手順で制作される。まず、助手によって紙が彩色される。その彩色された紙を、マテイスが鋲で望みの形体に切り抜いていく。それらをスタジオの壁にピンで留めていき、望みのコンポジションを作り上げる。『ジャズ』では、このようにして作られた切り紙絵をマケットとして各図版が印刷されている。マテイスが切り紙絵によって目指したものは、既に言及したようにデッサンと色彩の一体化であった。マティスは、まだ絵画が彼の主要なミディアムであり、自らの切り紙絵の可能性を殆と守探っていなかった1940年に、「私のデッサンと絵画は離れ離れになっている」(注5)と不満を漏らしたことがあったが、この問題に優れた解決をもたらしたのが切り紙絵であった。予め彩色された紙に鋲で直接切り込むことによって、マテイスは今や「色彩の中で直にデッサンする」(注6)ことができるようになったのだった。他方、ポロックのカット・アウトは次のようにして作られている。〈カット・アウト〉〔図I〕の場合、厚紙の上にポーリングの技法などによって絵具がオールオーヴァーに塗布された後、その中央が人の形にナイフで切り抜かれている。この切り抜かれた部分は〈カット・アウト・フィギュア〉〔図6〕に用いられており、この作品では、紙の上にその人の形をした部分が貼り付けられている。その他、〈蜘昧の巣を逃れて〉〔図後、そこから幾つかの半具象的な形体が撃で削り取られている。ポロックは1948年にカット・アウト・シリーズを始めた一方で、、周知の通り1947年から50年の聞には、主としてオールオーヴァーのボード絵画に取り組んで、いた〔図10〕。筆者は先にデッサンと色彩の統合がマティスにおいて大きな問題となっていたことに言及したが、この問題は実に1947-50年のポロックにも共通するものであった。すなわちパーニス・ローズが述べているように、ポロックはオールオーヴァーのボード絵画において、絵画的で、表現的な効果を持ったラインを生み出すポーリングの技法を画面上で全面的に展開することによって、「ドローイングjと「ペインテイングjを一体化したのだった(注7)。31
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