号EA74711 : Doxiadis 1995)、エンカウスティック技法で乳化した蝋をメデイウムとる。〔文献2〕はエンカウスティックの3種類の方法について述べた箇所である。l行目の下線部が、プリニウスの記述の矛盾箇所と考えられる。エンカウスティック画(焼付絵)では蝋をへらで扱って制作したことはほぼ異論なく、フオツグ美術館の作例からも確認できる。支持体が象牙などの場合に、ケストルム(彫刻刀)でまず表面を彫り込んで、着色蝋を埋め込んだ。それゆえ、〔文献2〕で列挙される3種類とは、1) 蝋をへらで扱う、2)彫刻万で線刻したのち、蝋をへらで埋め込む、3)絵筆で着色蝋を扱う、と考えられる。〔文献3〕は蝋の着色に用いる顔料について述べた箇所である。ここにあがる顔料は濡れた漆喰の壁面には使えないが、エンカウスティック技法では使用できるものだ。顔料については『博物誌』の以下の箇所に記述があり、ベイリーが注釈を加えた(Bailey黄(auripigmentum)〔『博物誌』33巻79〕、アッピア緑(Appianum)〔『博物誌』35巻48:現在知られている緑土(GreenEar由)に類似したもの〕、鉛白(cerussa)〔『博物誌』34変化はおこらない。はがれ落ちやすいなどの物理的理由があったと考えられる(Bailey〔文献4〕は壁面のつやだしの問題で蝋をメデイウムとして描くことではないが、関連事項として重要である(ほほ同じ内容の記述がヴィトルヴィウスの『建築十書』七されていたもの(『博物誌』21巻49)で、漂白の精度が高く、無色に近いので、仕上げのつやだしに適したものと考えられていた。カルタゴ蝋をオリーブ油で溶かしたとあるが、蜜蝋と油をまぜて乳化すると常温でも筆で扱えるほど蝋の流動性が増す。ミイラ肖像画でも明らかに蜜蝋を油と混合して描いたものが現存し(大英博物館収蔵香した技法が存在したことは確実である。下線部「没食子でつくった木炭」とは、火持ちがよいので用いられたと推測される。また、下嫌部「汗の滴りがそれから漆み出るまで」とは油の分離について云ったものと推測される。というのも水分なら蒸発し、汗がしたたるようには流れないからである(注1)。六行目の下線部の「大理石Jとは、大理石彫像のことである。蝋が彫像の仕上げのつやだしに使われたことを示す。1932)。深紫(purpurism)〔『博物誌』35巻44-45〕、藍(indigo)〔『博物誌』35巻46〕、雄巻175・35巻37〕。メリヌム(白色顔料)〔『博物誌』35巻37〕と青色顔料〔『博物誌j33 巻161〜164、ヴィトルヴィウス『建築十書』七書11.1〕は、漆喰表面に使っても化学1932)。書9.2-4にもある)。ここに登場するカルタゴ蝋は、古代ローマでは最上の蜜蝋とみな-413-
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