を通して為されている。さらに1948-49年頃のJPCR783〔図14〕およびJPCR785〔図12〕では、〈カット・アウト〉に見られるそれに非常によく似た人のような像がポーリングの技法によって描き出されているが、そこではそれぞれ〈カット・アウト〉の厚紙部分が型紙として用いられたことがマイケル・レジャによって推測されている(注12)。かくしてポロックは、マテイスの『ジャズ』に切り紙絵の技法のみならずステンシリングの技法をも逃さず見、それを幾っか翻案した形で自らの仕事の中に取り込んだと考えられる。先に引用したようにフリードは、〈カット・アウト〉においてポロックは切り抜きの手法によって成形作用を成し遂げたが、その切り抜かれた部分は視野の不在として見られる、と述べた。フリードのこの〈カット・アウト〉解釈は、同作品の現在の比較的ニュートラルな裏張りはポロックの死後に別の人物によって施されたという事実を知らずに為されたものであるが、それでもその解釈は尚ある程度有効であるように思われる。しかしながら〈カット・アウト〉においておそらくポロックは、切り抜きの手法によって「不在」を作り出すだけで良しとしたのではなかった。不在を有する型紙のような切り抜きの部分の下に異なる絵を重ね置くことによってポロックは、さらに前者の不在の形に後者を視覚的に切り取って浮かび上がらせることを意図していたように思われる(特に最後の1956年の実験については、ポロックは〈黒と白の絵画II)の上に〈カット・アウト〉の切り抜きの部分を重ね置くに当たって、前者に描かれている頭部の形象の中の限、鼻、口といった特徴的な構成要素を意図的に画面に残しており、ここに上述の作業に関する彼の考慮の跡を窺うことができる〔図5〕)。そして、そうすることにおいてポロックは、物理的、直接的にではなく、視覚的、間接的にさらなる成形を行おうとしていたように思われる。これが、筆者が先に「視覚的ステンシリングjと呼んだものである。さらに、上に言及した〈黒と白の絵画II)については、その絵自体が、絵具に浸透と拡散の作用をもたらすステイニングという新しい技法の採用によって、また別の種類の成形作用(の可能性)を有していた(注13)。〈カット・アウト〉においてポロックは、このように複数の新しい種類の成形作用を組み合わせるという極めて複雑で高度な試みを行っていたのだった。以上に論じられたように、ポロックはカット・アウト・シリーズ、とりわけ探究途中にして未完のままに残された〈カット・アウト〉において、マテイスの『ジャズJおよび切り紙絵の美学とピカソのコラージ、ユの美学を独自のやり方で吸収同化し、自らの代表的スタイルとなるオールオーヴァーのボード絵画以降、さらなる新しい展開を密かに図っていたと考えられる。34
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