鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
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⑩ 唐代龍門石窟の触地印阿弥陀像研究研究者:共立女子大学非常勤講師久野美樹1 はじめに唐代龍門石窟に阿弥陀像が多いことは、1941年刊行の『龍門石窟の研究』の中で塚本善隆氏がすでに指摘し、唐代の阿弥陀信仰について考察している(注1)。近年に至り、唐代龍門石窟の阿弥陀像については様々な方向から研究がなされている(注2)。しかし、唐代龍門石窟全体の詳細な実態は、1999年に龍門石窟研究所(当時)が龍門石窟の造像図版と造像記を合わせた資料『龍門石窟総録』全12巻(以下『総録Jと略称)を出版して初めて捉える事が可能となった(注3)。そこで報告者は基本的にこの『総録Jに依拠するとともに現地調査で得られた新知見に基づいて、唐代龍門石窟の触地印阿弥陀像を多方面から考察することとした。唐代龍門石窟のlOcm程度の小像から17mに及ぶ大像に至るまで、千仏像を除いた如来扶坐像の総数は4170例である。このうち、印相が判明するのは約54%の2254例、破損等で印相の判断のつかないものが約46%の1920例ある。印相のわからない例では、屈骨して胸前に挙げた掌の先が破損し、施無畏印か不二法門印か判断のつかない像が多くを占める。印相が判明する像の内訳は、大半がlOcm程度の小像で占められる禅定印像が1209例で如来扶坐像総数の約29%を占め、次いで、触地印(注4)像が595例で約14%、施無畏印像が231例で約6%、その他の不二法門印、転法輪印、両掌を膝に伏せる印、鉢を持つ等の如来扶坐像が219例で総数の約5%である。一方、唐代龍門石窟の立像や情像も含む如来像のうち造像記から尊名が判明するのは413例あり、このうち「阿弥陀」銘は圧倒的に多く272例で全体の約66%を占め、全て扶坐像である。また「弥勤仏」銘は24例(触地印肢坐像l例を含む)、「優填王(思慕釈迦)J銘は15例、「薬師」銘は28例、「慮舎那j銘は4例、他に「業道像J銘31例、「七仏」銘3倒、「菩提像」銘l例等がみられる。これ以外で、{奇像を以て弥勤仏と判断可能な像は293例、形式から優填王思慕釈迦とみなしうる像が32例、鉢を持ち薬師仏とみなし得ニるf象は68例である。以上のような統計を踏まえ、圧倒的に多い「阿弥陀」銘像272例中、印相が判明するのは107例で、このうち触地印が52例の約49%、施無畏印が27例の約25%、禅定印が17例の約16%、残りが不二法門印5例、転法輪印l例、両掌を膝に伏せる印1例(注5)、2 唐代龍門石窟における触地印阿弥陀像の統計上の位置-430-

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