鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
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書J後半部とを区別するための明確な指標は、いまだ提示されていない。る『増補版歴史物語聖書』(Biblehistoriale completee)後半部に組み込まれた形で14世紀以降普及することになるが(『増補版歴史物語聖書』の最古の例は1314年)、写本の制作年代以外に、この『増補版歴史物語聖書』後半部と本来の『13世紀フランス語聖本研究は、『13世紀フランス語聖書』を巡るこれらの問題に何らかの解答を与えることを直ちに意図するものではないが、中世フランス文学および聖書文献学を主体とする従来の研究ではあまり議論されてこなかった点にも留意しつつ、美術史研究の立場から問題解決の糸口を探り、中世後期における聖書図像の伝播・交流の中での『13世紀フランス語聖書』の位置付けを考察したい。3.『13世紀フランス語聖書Jの挿絵入り写本まず、現在知られている『13世紀フランス語聖書』の挿絵入り写本を、以下に列挙する。所蔵機関の整理番号に続く括弧内には当該写本に含まれるテクストを示し、加えて、筆者の調査に基づき現時点で妥当と考える写本の制作地ならびに制作年代を記した。リストは、A.聖書前半部(創世記ヨブ記)のテクストを含む写本ならびに聖書完本、B.聖書前半部のテクストを含まない写本、の2部より構成されている。リストAに掲げた写本は、ワルシャワ国立図書館所蔵の写本を除き、ベルジェ以来のテクスト研究により同定された作例である。これに対し、リストBに掲げた作例のうち、従来のテクスト研究では『増補版歴史物語聖書』後半部とされてきたサン・トメールの写本は、その制作年代から、『13世紀フランス語聖書』後半部と筆者が判断した作例である。なお、このリストからは、新約聖書部分のみを含む写本、あるいは創世記や福音書など個別のテクストのみを含む写本は除外しである。A.聖書前半部(創世記ヨブ記)のテクストを含む写本ならびに聖書完本使徒書簡、黙示録):パリ、1270-1275年頃。フランス語の特徴からも、彩飾の様式からも、現存する最古の作例と考えられる。(蔵言一黙示録):パリ、1280-1290年頃。1280 1290年頃。(1) パリ、フランス国立図書館、ms.Fr. 899 (創世記一詩篇、福音書、使徒行伝、(2) パリ、アルスナル図書館、ms.5056 (創世記一詩篇):パl人1280-1285年頃。(3) ロンドン、大英図書館、ms.Harley 616 (創世記詩篇)& ms. Add. 41751 (4) ワルシャワ、国立図書館、ms.Fr. F. v. I. 2 (創世記エステル記):パリ、-473-

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